第4幕『トム・オブ・フィンランド(2017)』

 ドメ・カルコスキ監督作品。ゲイアートの先駆者である画家のトウコ・ラークソネン(トム・オブ・フィンランド)を描く伝記映画。


 第二次大戦によるPTSDに苦しめられているトウコ。同性愛が違法であった時代に、自身もゲイであったトウコもまた社会からの迫害を受ける。そんななか、彼を癒やすのは絵を描くこと。それも筋骨隆々の男たちのエロティックなイラスト。劇中で彼のファンたちが「あなたから愛をもらった」とトウコに感謝を述べる気持ちがわかる気がする。僕もゲイ映画やBL漫画を読むとき、僕じしんの欲望が肯定された気がして、自分の存在を認めてもらえたように感じる。トウコじしんもまた、そういった自己救済を求めて描いていたのではないか。トウコの恋人、ヴェリが亡くなる場面はもうちょっと描いてもよかったのでは、と思った。さすがにあっさりすぎる。


 終盤になって、舞台はタイムスリップするように一気に現代へ移ってゆく。社会は大きく変革し、トウコの描いたイラストはゲイたちにとって一種のアイコンにまでなっている。壇上に立ったトウコは、レザーを身にまとう大勢のゲイの観客たちを満足げに見渡す。この景色は感動的。トウコが絵を描いているときに絵のなかの人物が彼の背後に座っている、というのが演出としてあったけど、それが現実になったよう。虚構であるはずの創作表現が現実社会に働きかけ、虚構を現実にしてしまった実例。

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