気もそぞろ/単発

遠くに行きたい気分でしょうがなかった。

理不尽な事象に感じたそれは、しっかりと逆鱗に触れていった。

それも知らずのうのうと垂れる音を無視してすべきことを済ましてさっさとそこを去った。呪いをかける方法でも考えていたかもしれないが。

そこから、自転車を引っ張り出してきて鍵を刺して跨った。

軽く走り始めてからふと、知らない道をギアを上げて走りたくなった。

ガチガチガチとハンドルを捻りギアを上げて、ペダルにかかる重さを確かに走る。

ペダルの重さに比例して、風を切る音は壮麗に聞こえ始める。

さてこれは、逃亡か。

これは誠に簡単な話であって。

ただの憂さ晴らしだ。

俺に非があるかどうかなど関係ない話である。

「憂さ晴らしがしたい」そんな気分である以上憂さ晴らしをする必要があるのだ。

どうせ、あとから鬱が追いついてくるんだから。

肺腑に沈殿して嘔吐も消化もできない憂鬱が全身に回って動けなくなる前に、

良い気になっておきたいだけだ。

憂鬱を溶解させる躁を補給しておきたいだけだ。

躁鬱になっておけば調子だけは良くなる。

調子と外面だけ拵えてやればどうにか最低限過ごせるはずだ。

この憂鬱は今、ふって湧いたものではない。

気づけば累積していたもの。

気づけば凝固していたもの。

気づけば可燃化していたもの。

気づけば発火したもの。

年々燃えにくくなってはいるが、大きさは最初の発火より何百倍になっている。

燃えずに肺腑のそこで重く沈殿して減りもせず変わらず累積している。

嘔吐するにも消化するにも痛みと苦しみが伴う。

最悪、死に至るだろう。

死にたくなる感覚になることがあっても、終えたいとは思わない。

忙しいから。

今まさに、憂さ晴らしに舌を出して中指でも立てて最悪な歌でも歌おうとしているところだ。

忙しいったらしょうがない。

憂鬱を吐けるのは当分あとだ。

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