【聖女視点】第七話 聖女はどんな手を使っても結ばれたい

「トオル様、私の趣味はいかがでしたか?」

「とても良い趣味をお持ちですね。キャンプは子供の頃以来でしたから、お陰でリフレッシュできましたよ」

「それは良かったです。いつも一人だったのですが、私も楽しかったです。ま、また一緒に行ってくれますか?」


 今日もあざとらしく攻めていく。

 昨日のソロキャンは失敗したからな。

 帰って調べた所、やはり湖のジャガイモには、利尿作用と毒を中和する成分が入っていた。

 次こそは失敗しねえぞ。


「はい、もちろんですよ。それで、今日はどちらへ行かれるのですか?」

「今日の予定は、ジュネイル聖女学園に特別授業をしに行きます」


 次の作戦に移る。

 あたしは優秀なんだ。頭が良い所を見せれば、トオルもクラっとくるに違いない。薬草など使わなくてもな。


 ◇


 馬車に揺られて一時間。

 あたしはトオルの横に座り、腕にしがみついて胸を押し付ける。


「かなり揺れますから、頭をぶつけない様に気を付けて下さい」

「はい。こうして、トオル様にしがみついていれば問題ありません」

「ラ、ラーナさん……」


 胸の感触をとくと味わうがいいさ。

 あたしは着痩せするタイプなんだ。脱げば結構あるんだぞ。

 舗装されていない山道を、ガタガタ揺れる度に感じるだろ?


「ラーナさん、少し腕が痛いです」

「も、申し訳ありません……」


 力を入れすぎたか。

 鍛え過ぎも良くないな。

 

「ラーナさん、それではこの辺りでカメラを回しますね」

「私の授業まで見られていると思うと、やっぱり緊張します」


 山奥にある聖女学園では、次世代の聖女を目指すJK共がわんさかいる。

 あたしが校舎に入った途端、女子たちは「キャーキャー」言いながら尊敬の眼差しを向けてくる。


 あたしは手を振って返してやるが、新しい芽は踏み潰すに限る。あたしよりも美しい存在は、この世に必要無い。

 早めに消しておくのが良いのさ。


「起立、礼、着席」


 三十名の女子高生が、あたしに礼をして席についた。

 金髪エルフと狐耳の獣人族も不要な存在。ドワーフは幼いガキに見えるから放置でいい。


「それでは聖女候補生の皆さん、本日も特別授業を始めます。本日のテーマはズバリ、愛です」

「はい!」

「えと、エレーナさん、どうかされましたか?」

「後ろで変な魔導具を持っている男の人は、ラーナ先生の彼氏ですか?」


 その予定だが、今は清楚に振る舞うのがいいだろう。

 ま、トオルも満更でも無さそう仕草をしている。


「か、彼は私の密着取材を担当して…」「キャー! 密着ですって!? ラーナ先生も隅には置けないのですね〜」

「はい! はい! はい! ラーナ先生と彼氏さんとの出会いを教えてほしいです!」

「か、彼との出会いは、私が強制的に召喚を…」「キャー♡ ラーナ先生は案外肉食系女子だったのですね!」


 当たり前だろうが。

 あたしはバリバリの肉食系だ。


「コ、コホンッ。え、えと皆さん何やら勘違いをされている様ですが…」「ラーナ先生! 好きな人を攻略するにはどうすれば良いですか?」

「攻略!?……え、えと、今回の授業のテーマは愛ですが、そういった…」「やはり告白した方がよろしいでしょうか? でも聖女候補生である、わたくしから想いを告げるのもどうかと思いまして、あ、でもでもいつまで待てばいいのか分からないですし、彼が他の子と引っ付いてしまうのではないかと毎日毎日毎日毎日不安でどうしようも無いのですが、ラーナ先生であればどのように対応されるのですか?」


 ふ、テーマは愛だ。

 愛と言えば、男と女がイチャコラする話以外無い。

 ここで家族愛や友情なんかクソみたいな事は教えない。


「や、やはり自分から告白する……というのが良いと思いますね。ジッと待っていても何も変わりませんし」

「やはりそうだったのですね!」

「そ、それでは授業の本題に…」「はい、はい、はい、先生! わたしも好きな男子いるんだけど、どんな風に告白したらいいか分からないのよね。アドバイスくださ〜い」

「じ、自分の想いをそのまま告げては良いのではないでしょうか……?」

「例えば?」

「た、た、例えば…………」


 よし。自然の流れで恋話に持っていけたな。

 ここはわざとらしく、敢えて噛んで可愛いぶるとするか。


「た、例えば、例えばですよ?」

「例えば?」

「ず、ずっと前から、す、す、す、しゅきでした……」

「「「キャーッ!! 先生かわいい〜♡」」」

「お、大人をからかうものではありませんよ〜!」

「ラーナ先生、ありがと、じゃなくて、ありがとうございました。あたしも『しゅき〜』って告ろうっと」


 ふ、我ながら完璧だな。

 ここで幻影魔法を自分にかけて、火照りきった顔でも見せつけてやるか。

 後は適当に恋愛相談をして時間を潰して授業料だけ踏んだくっておけばいい。

 大事なのは、あたしの好感度だからな。


「ラーナさん、お疲れ様でした」

「お、お疲れ様でした。今日はとてもお恥ずかしい所をお見せしてしまいました……。いつもはあんな風にはしゃぐ子たちではないのですが……」

「テーマがテーマでしたからね。でも、ラーナさんは本当にみんなに愛されている様で、とても良かったと思いますよ」

「あ、ありがとうございます。今日のお仕事は以上になります」

「今日はずいぶんと早いお帰りなんですね」

「はい、明日は何と言っても年に一度の聖女祭ですからね。帰ったら準備をしなければいけませんし」

「聖女祭って何です?」

「あ、聖女祭というのは、クラス毎に色々な催し物を行うお祭りの事です。楽しみにしていて下さい」


 トオルよ、本当に楽しみにしておくといい。

 別の意味でな。

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