【聖女視点】第四話 聖女の思惑

「ラーナさん、準備はいいですか?」


 さあ、トオル。あたしの腕前を見て惚れるがいい。


「え、えぇ、皆様に見ていただく様なものではございませんが、頑張りますね」

「普段通りで結構ですよ」

「少し緊張してきました。あの魔道具に向かって話しながらで良かったのですよね」

「はい、バッチリです。それではカメラを回します。3、2…」


 ん? この不思議な音楽は何だ?

 異世界では料理を作る時に流すのか?


「皆様ご機嫌よう。私は聖女、ラーナ・エルフィオーネと申します。今日はジュネイル王都で古くから馴染みのある料理を作りたいと思います」


 ベールを頭に巻くと気合いが入るんだよな。


「先にお伝えしておくと、このチャンネルをご覧になられている方は、きっと世界が違うと思いますので、材料の代替え案もお話させていただければと思います」


 異世界の下等生物共に教える時には、こういった代替え案も言っておくといいだろう。料理ができる女はいつの時代もモテる。それが異世界のトオルであってもな。

 流石はあたし、自分に惚れてしまうな。


「まずはワイバーンのもも肉をぶつ切りにします。ワイバーンのお肉が無ければドラゴンのお肉でも代用できます」


 ワイバーンの肉には媚薬効果と似た成分が含まれている。これでトオルもあたしにイチコロさ。


「包丁の扱いが苦手な方は、風魔法のウインドカッターを使っていただくと、この様に綺麗に切れますよ」


 チッ、少し力んでしまったか。

 床が切れてしまったではないか。


「少し魔力操作を誤って床ごと切ってしまいましたが、気になさらずに次へ参りましょう」


 ま、細かい事に一々気にしていたら負けだ。


「大きめのお鍋に聖水を入れて火をかけます。あ、聖水が無ければ、お水に魔石を丸一日漬けておくといいですよ」


 ふ、聖水も媚薬効果がたっぷり含まれているからな。

 この料理を食べ終わった時には、正気では無いトオルがあたしを襲い、見事に結ばれる魂胆だ。


「ワイバーンのお肉をお鍋に入れたら、お野菜を切っていきます。用意するのは、玉葱と人参とお芋とキャベツです。ブロッコリーもあれば良いと思います。全て一口サイズにカットしましたら、これもお鍋に入れます」


 ここまで約一分か。

 手際良くしないと媚薬効果が薄まるからな。


「この料理に欠かせないハーブを入れます。まずはローリエです。私はローズマリーも一緒に入れますが、ご家庭によってはオレガノを入れる人もいますよ。特に獣人族の方にオレガノはとっても好まれます」


 このハーブは媚薬効果をふんだんに抽出する効果がある。より倍増させるために今回は三種類使う。


「弱火にして三十分ほどコトコトと煮込みます。その間に、もう一つお鍋を用意して塩を入れたお水を沸騰させます。今回使うのはショートパスタです。無ければスパゲッティーニなどのロングパスタでも結構です。アルデンティにしたら、おザルに取り上げます」


 とりま、ザルをおザルとでも言っておけば上品に聞こえるからな。貴族共がよくを使っていたのは覚えている。


「ポトフィのお肉がほろほろになって、お野菜がホクホクになれば、茹で上がったパスティと合わせます」


 ポトフィにスパゲッティーニを合わせれば、パスティになる。ま、このジュネイル王都では定番の組み合わせだな。


「合わせましたら、ここで一度味見をします」


 しまった。あまりの美味さに食い過ぎた。

 逆にあたしの体が火照ってきてしまうな。


「あ、つい美味しすぎて食べ過ぎてしまいましたね。いつもの悪い癖です。では、ここで仕上げにかかります。ここが一番大事です。この料理のポイントと言ってもいいですね」


 ここで媚薬成分が満遍なく行き渡る様に、こねるのがポイントさ。


「このピザ生地を丸く伸ばしてから、上にトマトとチーズ、それからバジルを乗せてオーブンで焼きます。オーブンが無ければ、ファイアボールでも良いと思います。焼き上がったら、ソースとマヨネーズ、そして青のり

をかけて、郷土料理のマルゲリータの完成です。ぜひ皆様も作ってみて下さいね」

「はい、カット。オッケーです」

「トオル様、いかがでしたか?」

「バッチリですよ、ラーナさん。本当に料理がお上手ですね。きっと良いお嫁さんになるんでしょうね」

「そんな、トオル様ったら。では早速いただきましょう」


 どうだ、トオル。

 あたしの手料理は美味いだろ?

 そんなに見つめられると、あたしも興奮してしまうぞ。


「ラ、ラーナさん……な、何だか……眠気が…………」

「トオル様!? お、起きて下さい、トオル様!」


 しまった。聖水には媚薬効果だけでなく、睡眠効果も多分に含まれていたな……。

 仕方ない。こうなれば明日にでもあの森に連れて行き、誰にも邪魔されず二人きりになればいいだけの事。

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