【聖女視点】第三話 聖女と魔王の関係

「えい、ほっ、えい」


 チッ、あたしに手を出さずに普通にをする事になるとはな。

 何ともクソ真面目な男だ。


 あたしから押し倒すのは聖女としてのプライドが許さない。なら、もう一度あたしの魅了スキルを使うか?

 いや、重ねがけは精神崩壊のリスクがあるか。

 早いところ手駒にしなければ時間が残されていない。


「ラーナさん、何でこんなゲーム機まであるんですか……?」

「あ、これは以前召喚した勇者様から頂いたものです」


 このゲイムという魔道具は、最初に召喚した勇者からの貢ぎ物だ。

 ま、あのデブ勇者はおそらく童貞だろうし、そもそもあたしのタイプじゃなかったから、ちょいと色気を出して持ち物を貢いでもらった。


「勇者は何人ぐらいいるんです?」

「まだ召喚を始めて間もないのですが、三名いますね。その内の一人が、トオル様と同じ黒髪と黒い瞳の方です。後はエルフとドワーフの方ですね」


 デブ勇者はトオルと同郷の可能性はあるが、トオルはあたしのタイプだ。

 早い所、あたしの男になれば魔王も手を引いてくれるんだがな。

 

「今その勇者たちはどこにいるんですか?」

「ここジュネイル王都にいますよ。魔王領へ旅立つ予定なのですが、あと一人仲間が欲しいとの事で……」


 このジュネイル王都が魔族共に攻められない理由は、魔王があたしを気に入っているためだ。

 三年前に魔族が襲来した時、魔王は私を見るや否や、結婚を迫ってきた。

 あたしは咄嗟に魔王を魅了し、魔族の軍勢を追っ払った。


 ま、そのせいで良くも悪くもしつこく言い寄られる事になり、たまにデートをしてやる代わりに、この国だけは平和が続いているという訳さ。


 あたしのお陰でこの国は救われていると言ってもいいが、いつまでも魔王は待ってくれない。残り一月といったところか。とはいえ、結婚相手ぐらいは自分で決めたい。


 あたしに男ができれば魔王も手を引くと言っていた。

 ただし虚偽の報告や、見せかけだけではすぐに見破られる。

 聖女という立場上、この世界の男共はあたしに言い寄って来るヤツはいない。

 そこでトオルを旦那にすれば、魔王は手を引き、この国で平和に暮らす事ができる。

 

「また来週には召喚の儀式を行いますよ」


 魔王を討ち倒す強者が来てくれればいいが、召喚した勇者たちでは、明らかに力不足だった。

 ハッキリ言って、あたしの方が強い。


「また勝っちゃいました。次の対戦でお仕事に戻りますから、せっかくですし、最後は本気でやらせてもらいますね」


 あたしは昔から何をしてもすぐに習得する事ができる天才なんだ。

 だが、魔王だけは勝てない。

 クソッ、妙に腹が立ってきた。


「うおりゃッ! オラオラオラオラオラオラッ!!」


 げいむに八つ当たりしたところで何も変わらないのは分かってる。

 くっ、気付けばもう会議の時間か。


「本日は聖女会議がありますので会議室へ向かいます」

「その会議では、どのような事を話し合うのですか?」

「ふふっ、来れば分かりますよ」


 円卓のテーブルに、二十名の下僕と共に着席した。


「それでは第389回聖女会議を始めます。本日の議題は、お布施をいただくためには、どの様な工夫をすれば良いのかを話し合います。提案がある方は挙手をお願いします」


 とにかく魔族を足止めするには金がいる。


「「「はい!」」」

「それでは手を上げるのが一番早かった、シスター・マリアンヌ」

「はい。今となっては熱心な信者は多いため、新規獲得はかなり難しいと考えます。そこで既存の信者に一日に一度のみならず、二度三度と通っていただく事が必要かと思います」


 やるじゃねえか、マリアンヌ。

 後で頭でも撫でてやる。


「それは素晴らしい提案ですね! それでは他に提案がある者は…」「「「はい!」」」


 いつもいつもお前たちはやる気があって関心する。


「それでは、シスター・ヴィクトリア」

「わたくしの提案は、壺以外の物も販売する、というのはいかがでしょうか? 例えば、壺は銀貨一枚、花瓶は金貨一枚など、種類を豊富に出すのがよろしいかと」

「素晴らしい案ですね」

「なるほどですわ」

「花瓶はいいですね」

「水晶とかも良さそうよ」


 また、あのババアの鴨共に買わさせる事ができるな。

 ヴィクトリア、お前も撫でてやるよ。


「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。それでは晩御飯の準備にかかりますが、本日はお部屋で作ろうと思います」

「ラーナさんは普段から料理をされているのですか?」

「はい、幼い頃から料理は手伝わされていましたので、かなり得意ですよ」


 やっぱトオルも付いて来るのか。

 ま、そんなにあたしの手料理を食いたいなら食わせてやる。

 あ、そうか。料理にこっそりと媚薬を入れて手懐けるという手もあるな。


 トオルよ、あたしの手料理を楽しみにしておくといい。

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