【聖女視点】第二話 本当の狙い
「「「「「天にまします我らの女神よ。 あなたの栄光を賛美し―・―・・」」」」」
今日もあたしの神託を受けようと、鴨がこぞって来てくれる。
水浴びを終えた妖艶なあたしが祭壇の前に立つと、いつも鴨が綺麗に整列する。
(ま、いつも通り適当にそれらしい事を言ってやるか)
「女神様はあなたの祈りに耳を傾けています。引き続きお祈りを捧げ、お布施を捧げ、最後に【長寿の壺】を買っていただければ、より健康に若く長生きする事ができるでしょう」
この聖女のあたしが言ってやってるんだ。信者共はありがたい言葉を素直に受け取って、金だけ置いて帰ればいいのさ。
「ありがたや、ありがたや。聖女様、本日もありがとうございました」
ふ、それでいい。
せいぜいありがたく思っておけばいい。
それにしても、五銅貨で仕入れた粗悪なゴミ壺が飛ぶ様に売れるとは、聖女会議も馬鹿にならないものだね。
最後はトオルか。
ま、コイツは初見だからな。相手の心の闇を覗く事ができる心見のスキルで見てやるか。
ただこのスキルを使うと、目が虚になっているとシスターに言われるからな。
できれば使いたくは無いのだが、今回は仕方ないか。
(ハァ……美しいあたしが台無しだね)
『みつき、悪いがお前はクビだ。たかとさんには俺の方から伝えておく』
おっさんが「クビだ」と言っているが……詰まるところ無能な馬鹿で職場を追い出された、という意味か?
つまり、トオルは無能という訳か。
ま、ありのままを言ってやるか。
「トオル様の過去が見えます。あなたは最近、とても悲しい出来事がありましたね。あなたはクビだ、そう言われましたね?」
「……え? な、なぜ分かるのですか?」
ふ、驚いてる驚いてる。
そのまま、お前もあたしに心酔すればいい。
さあ、後は金を出しておけば良いのさ。
「ですが、どの様な罪を犯そうとも女神様は許していただけるのです。あなたには幸せが待っています。そのようなあなたには、あの【幸運の壺】を買えば、今後の人生がより豊かになる事でしょう」
そうそう良い子だ。そうやって金貨を……そうか、トオルは金を持っていなかったな。
ま、そのうち稼ぐ事になれば、あたしに貢ぐハメになる。
あー、久しぶりに
さっさと食堂に行くか。
今日の朝食は野菜スープとパンか。
見た目こそ同じだが、あたしだけは毎日最高級のドラゴンやミノタウロスの肉が入った絶品スープと、ふわふわのパンだが、これがなかなか美味い。
コイツらは、薄っすい味のしねえスープと歯が折れんじゃねえのかって思うほどの硬いパンという餌。
毎日毎日飽きずによく食えるものだな。
「「「神よ、この日の恵みを感謝し―・―・・」」」
祈って何の意味があるんだよ。
冷めてしまうし、せっかくの美味い料理も台無しになってしまう。
こっちは腹が鳴ってんだ。
先に食わせてもらうよ。
あたしは気付かれずに幻影魔法で祈っている姿を見せる。
「この世界に平和をもたらす女神様、感謝いたします、セージョン」
「「「「「セージョン」」」」」
ようやくコイツらが食べ始めた時には、とっくにあたしは食い終わり、仕方無しにトオルを待っておく。
皆が食べ終えた頃には十二時になり、あたしは早くも昼飯が食いたい。
「十二時になりましたので、今から昼休憩を二時間取りますね」
「休憩中はいつも何をしているのですか?」
「まずはお食事をしてからお昼寝をするか、最近はゲイムをしてますね」
「それではまず、お食事を取りましょう。せっかくですから、街の流行りのお店に行きますね」
いつも街を歩くと、あたしを見かけるなり挨拶をしてくるヤツや手を合わせてくるヤツまでいる。
こっちは腹が減ってんだから邪魔しないでほしい。
(あ、トオルにはこの街の事を話してなかったな)
「ここは世界で最も大きな国の王都ジュネイルという街です。美味しいものも沢山ありますよ。さ、着きました」
あたしのお気に入りの店は、オープンテラスのカフェだ。ここではドラゴンステーキが美味いんだよ。
「いらっしゃいませ〜。あ、聖女様、こんにちは」
「ご機嫌よう。本日は二人でお願いします」
「二名様ですね。それではご案内いたします」
店員の兎人族は、あたしを崇拝している。
満席でも無理矢理お気に入りの席を空けてくれる可愛い子だ。
「トオル様、ここのお店は何といってもドラステが美味しいのです」
「ドラステとは何ですか?」
「ドラゴンステーキです。最近は皆さんそう言っているのですよ」
「ご注文はお決まりですか?」
「はい、それではドラステプレートを二つお願いします」
「かしこまりました」
しばらくすると、特大サイズのステーキプレートが運ばれてきた。
ま、このサイズは聖女特典みたいなものさ。
塊のドラゴンステーキと野菜スープにグリーンサラダ、そして硬いパンだ。
硬いパンは大聖堂と違い、スープに浸けて食うと美味いんだ。
「パンとスープはおかわり自由なんですよ」
「いつもこの量を食べているのですか?」
「そうですね。毎日同じぐらい食べてますね」
あ〜やっぱ美味いな。
こうなったらもう止まらない。
あたしはバクバクとがっつく。
何だ、もう無くなったのか。
「すみませ〜ん」
「はーい! 少々お待ち下さいませ〜!」
「あ、トオル様も替えドラしますか?」
「替えドラって、まさか……」
「追加のドラゴンステーキですね。追いドラやドラ増しとも呼ばれていますよ」
「いえ、もうお腹いっぱいなんですよ……」
「あら? トオル様は少食だったのですね。気が回らず申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそすみません。よかったらこれも食べますか?」
お、優しいじゃねえか。
食い物を渡すなんて、この世界のヤツではかなり珍しいぞ。
「よろしいのですか! それではいただきますね」
ふぅ〜、腹いっぱいになったな。
さてと、用が済めば次だ。
「ありがとうございました〜」
「ふぅ〜。お腹いっぱいになりましたね」
「すみません、俺の分まで払ってもらって」
「いえ、聖女割りがありますので安いものですよ」
聖女のあたしが金を払う訳ねえだろ。
ジュネイル王都の店なら、あたしは金なんて持ち歩かなくとも全てタダで通るからね。
「まだ時間はありますので、次は私の部屋に来て下さい」
今頃、トオルはあたしを抱けるとでも思っているに違いない。何せ女の部屋に聖女と二人きりだからな。
さぁ、野獣と化す姿を見せてもらおうか。
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