【聖女視点】第一話 本当の私
私はジュネイル大聖堂に勤める聖女、ラーナ・エルフィオーネと申します。
世界を混沌へと陥れる魔王を討ち倒すため、異世界から勇者を召喚するのが私のお役目です。
これまで三名の勇者を召喚しましたが、パーティメンバーに後一人仲間が必要だと言われたので、勇者をもう一人召喚することになりました。
「き、君は誰?」
呼び寄せたのは黒髪の黒い瞳、年は三十前後でしょうか。なかなかのイケメンさんでした。
「勇者様、世界を脅かす魔王を討ち倒すため、あなた様のお力をお貸し下さい」
大聖堂の地下にある召喚儀式場から、地上の応接室に案内します。いつも思うのですが、あの長い階段は疲れますね。
その後、私は黒髪の勇者に召喚した理由を説明しました。
「これで話は以上になります」
私は全ての事情を話し終えると、勇者から思いもしない答えが返ってきたのです。
何でも、自分はただのカメラマンという職業で、何の力も持たない普通の人間で勇者などでは決して無いと。
これには私だけでなく、大司祭のサリエル卿も驚きを隠せませんでした。
そう、私は勇者召喚に失敗してしまったのです。
そもそも勇者を召喚するには、膨大な魔力が必要になります。
聖女である私でさえ、おいそれと簡単に召喚することはできません。
私は自分が失敗したことに内心腹を立て、心の中では居ても立ってもいられない状況でした。
(クソがッ! あたしが失敗したってのか!)
サリエル卿に協力してもらいながら召喚の儀式を行うため、ひとまず謝罪をすることにしました。
とりま謝っておけば、ハゲジジイも許してくれるだろうと。
「勇者様では無かったのですね……サリエル卿、申し訳ありません……」
だがあたしは王国の第一階の絶対的な聖女。
取り乱す気持ちを悟られない様にするため、できる限り平然と装う様にする。
ま、勇者召喚に失敗したとはいえ、七日も経てば魔力は全回復し、再び召喚の儀式はできる。
ミツキトオルと名乗った異世界のイケメンは、他に使い道はある。
とりあえず強制的に召喚したのは、あたしだ。
詫びの気持ちとして、男が望むことを叶えてやる。
「で、ですからお詫びといっては何ですが、トオル様の望まれる事を出来る限りさせていただきますので、どうかお許しいただけないかと……」
男はしばらく考え込んだ後、とんでもないことを言ってきた。
「ラーナさんを密着取材させていただけませんか?」
取材という言葉は初耳だったが、密着というのは間違いなくあたしの体を求めているのだろう。
ま、あたしとしてもイケメンに抱かれるのは悪くない。
ただ、サリエル卿や兵士たちも見ている場で「いいですよ」なんて言えるはずも無い。
「み、密着!? え、あ、あの……私たちは出会ったばかりで、まだ早いと言いますか、お、お付き合いもしてないですし……」
だがあたしは、どうやら勘違いをしていた様だ。
「そういうのでは無く、密着取材というのは、ラーナさんの日常を、このカメラで撮らせていただきたいんです」
「その変わった魔道具はカメラと言うのですね。わ、私の事を知りたいと……そ、それはとても嬉しいと言いますか、とてもいやらしいと言いますか」
「いえ、ただ撮影しながら色々と質問させて欲しいのです。もちろん仕事の邪魔はしません」
「ま、まぁそういう事でしたら構いませんよ」
男もあたしに好意を抱いている様だ。
ま、これから二人の距離をゆっくりと近付けていくのも良いものだ。
そのうち男からあたしの魅力にハマって惚れることは確定事項。
しばらく男にはあたしと一緒にいてもらうことにした。
◇
翌朝。
「今からどちらへ行かれるのですか?」
「朝は決まって庭のお花の水やりから始まります」
トオルはカメラという魔道具を向けながら、黙ってあたしに付いて来る。
「ラ〜ラ〜ラララ〜♪」
あたしの歌には魅了の効果がある。
そのうちトオルは、あたしから目が離せなくなる。
「よいしょっと……」
花に水やりを終えると、あたしはバケツに除草剤を入れ、毎日ぶっかけることにしている。
あたしより美しいものは許さない主義だからな。
「はい、こうして満開に咲いた美しいお花を枯らすのが趣味…いえ、修行なのです。ラ〜ラ〜ラララ〜♪」
おっと、危ねえ。
危うく痛めつけるのが趣味と言いかけた。
「これも聖女としての修行です。生と死、この世の尊さを知るために必要な行為なのです」
流石はあたし。
咄嗟に出た言い訳で誤魔化せたな。
「あ、このお花でしたら、明日また蘇生魔法をかけるので大丈夫ですよ」
「蘇生魔法ですか……」
「はい、綺麗に元通りになった所を、何度も何度も除草剤で枯らすのは、たまらなく気持ち良…修行なのです」
蘇生魔法で復活させて何度も何度も痛め付ける。
それが最高に気持ちいいのさ。
「次は走りますので、頑張って付いて来て下さいね」
「俺も体力には自信がありますから、気にせず普段通りに走って下さい」
「はい。それでは、いつも通りに走らせていただきますね」
クラウチングスタートから全力で走ることで感じるエクスタシーはたまらないものがある。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
何だ情けねえな。
体力があると言っていたくせに、もうこのザマかよ。
ま、勇者じゃ無いから仕方ねえか。
「もうへばってしまったのですか? それでは後百周してきますね」
風を切って走り去るあたしを見て惚れるがいい。
見せつけてやる様にランニングを終えた。
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