第二話 聖女からの神託

「「「「「天にまします我らの女神よ。 あなたの栄光を賛美し―・―・・」」」」」


 まるで声が天井から降って来るような感覚。

 見たところ礼拝の時間のようだが、老若男女問わず子供たちも多い。


 水浴びを終えた彼女が祭壇の前に立つと、礼拝に来た人たちが列を作り、順番に何やら声をかけ始めた。

 何を話しているのか、隣のおばあさんに声をかけてみる。


「すみません、ラーナさんは何を話されているのですか?」

「あんた神託を受けた事がないのかい? 月に一度、ああやって聖女様からありがたいお言葉をいただくんだよ」


 神託って神のお告げみたいなものか。

 どうせなら俺も受けてみようと、おばあさんの後ろに並ぶ。


『神託でスキルでももらえる設定か?』

『ばあさん青のカラコンとか、何気に細かい演出』

『かなり金かけてるな』

『エキストラはアジア人』

『子供たちは欧米っぽいよ』


 しばらくして、おばあさんの番がやって来たので、カメラを近づける。


「女神様はあなたの祈りに耳を傾けています。引き続きお祈りを捧げ、お布施を捧げ、最後に【長寿の壺】を買っていただければ、より健康に若く長生きする事ができるでしょう」


『これ何の悪徳宗教?』

『ばあさん、典型的な悪徳商法に引っかかるな!』

『お布施と壺ビジネス』

『あ、おばあさん騙されたっぽい』


「ありがたや、ありがたや。聖女様、本日もありがとうございました」


 おばあさんは壺を持って出て行った。

 コメントにある通り、悪徳商法なんて言わないよな?

 この世界では魔法という非科学的な現象を起こす事ができるんだ。

 きっとあの壺は本物だろうな。


 ようやく、俺の出番がやってきた。

 何を言われるのか気になりながらも、真正面にカメラを向ける。


『銀髪に青いカラコン似合ってるな』

『肌めっちゃ綺麗』

『何を言われるか期待』

『祭壇すげえ豪華だな』

『雰囲気が変わった』

『目を虚にする芝居w』



「トオル様の過去が見えます。あなたは最近、とても悲しい出来事がありましたね。あなたはクビだ、そう言われましたね?」

「……え? な、なぜ分かるのですか?」


『カメラマンの男、クビにされたの?』

『ユーザネーム@mitsuki106は仕事クビw』

『だから配信者になったんじゃね?』

『世知辛い世の中』


 う、クビにされた事を思い出してしまった。

 コメントをオフにしようとも変更できず、勝手に流れてくるからどうしても見てしまう。


「ですが、どの様な罪を犯そうとも女神様は許していただけるのです。あなたには幸せが待っています。そのようなあなたには、あの【幸運の壺】を買えば、今後の人生がより豊かになる事でしょう」


『幸運の壺w』

『全部同じ壺』

『カメラの男が何をやらかしたのか気になる』

『さすがに買わんやろ』

『欲しそうにしてるよ』


 そんな壺があればすごいと思うが、全部同じに見えるのは気のせいか?

 でもすごく欲しい。

 ただ、この世界のお金を持っていないから、あきらめるしかないな。


『あいつ買わなかったな』

『当たり前だろ。誰が買うんだよ』

『『『ばあさんwww』』』


 続いて向かったのは、大聖堂内にある食堂だ。

 たくさんのシスターがいる中、配給制で食事を受け取る。孤児院が併設されているようなので、子供たちもたくさん並んでいた。


『聖女の子以外は全員黒い修道服なんて不気味だな』

『聖女だから白とか?』

『階級じゃないの?』



 俺はそのまま彼女について行き、向かいに座って朝食を取る。

 朝は薄い野菜スープと硬いパン。

 昨夜もここで食べてさせてもらったけど、決して美味いとは言えないものだ。

 ま、ここでわがままを言ってはいけないだろう。


「「「神よ、この日の恵みを感謝し―・―・・」」」


 ここでは食事の前に祈りを捧げてから食べるのが習慣のようだ。

 ただ昨夜も思ったが問題が一つある。

 一時間経っても食べれないという、祈りすぎ問題だ。

 これではせっかくの温かい料理も完全に冷めてしまうし、隣から「ぐぅ〜」と、お腹の音まで聞こえてくる始末。

 どうにかならないものか。


「この世界に平和をもたらす女神様、感謝いたします、セージョン」

「「「「「セージョン」」」」」


『セージョンって何?』

『アーメンみたいなものじゃないのか?』

『聖女ンwww』

『そういう事w』


 ようやく食べ始めた頃には十一時を過ぎて、硬いパンがさらに硬くなって、もはや鈍器に近い。

 冷めたスープに漬けながら食べ終えた頃には、すでに昼の十二時になっていた。


「十二時になりましたので、今から昼休憩を二時間取りますね」

「休憩中はいつも何をしているのですか?」

「まずはお食事をしてからお昼寝をするか、最近はゲイムをしてますね」

「え、食事ですか? 今食べたばかりなのですが……それにゲイム? あ、ゲームの事ですね」


『また食べんの?w』

『鬼ごっこなら捕まえられない』

『人狼かな』

『トランプとか?』

『チェスじゃね』

『乙女ゲー』


「それではまず、お食事を取りましょう。せっかくですから、街の流行りのお店に行きますね」


 さっき食べ終わったところだけど、なんて改めて言い辛く、とりあえず彼女について行く。


 初めて街へ来たが、大通りには異世界お馴染みの武器屋や道具屋、冒険者ギルドに様々な屋台が所狭しと並んでいた。

 何ともいい匂いが漂っているが、お腹はいっぱいなんだよな。


『セット凝ってる』

『金かけすぎ』

『金髪美女多しw』

『串焼き美味そう』

『武器屋の親父わろた』


「ここは世界で最も大きな国の王都ジュネイルという街です。美味しいものも沢山ありますよ。さ、着きました」


 彼女が入っていったお店は、お洒落なオープンテラスのカフェだ。


「いらっしゃいませ〜。あ、聖女様、こんにちは」

「ご機嫌よう。本日は二人でお願いします」

「二名様ですね。それではご案内いたします」


 店員のバニーガールはコスプレに見えるが、どうやら兎耳は本物みたいだ。


『エキストラにしてはかなり多いな』

『カフェに剣と鎧の戦士w』

『マジで金かかってるよな』

『文字が異世界風』

『昼からバニーガールは新鮮』

『兎耳が自然に見える』


 ここまで視聴者は36名、出だしは好調だ。


「トオル様、ここのお店は何といってもドラステが美味しいのです」

「ドラステとは何ですか?」

「ドラゴンステーキです。最近は皆さんそう言っているのですよ」

「ご注文はお決まりですか?」

「はい、それではドラステプレートを二つお願いします」

「かしこまりました」


 しばらくすると、特大サイズのステーキプレートが運ばれてきた。

 塊のドラゴンステーキと野菜スープにグリーンサラダ、そして硬いパンだ。


「パンとスープはおかわり自由なんですよ」

「いつもこの量を食べているのですか?」

「そうですね。毎日同じぐらい食べてますね」


『ドラゴンという名のビフテキ美味そう』

『爆盛り』

『テンプレドラゴン』

『もはや大食い選手権』


 美味い! 何なら和牛と同じぐらい美味いが、一人前五キロはあるステーキは流石に多すぎるし、すでにお腹も一杯。

 彼女はバクバクとがっついているところを見ると、すぐにでも平らげそうだ。


「すみませ〜ん」

「はーい! 少々お待ち下さいませ〜!」

「あ、トオル様も替えドラしますか?」

「替えドラって、まさか……」

「追加のドラゴンステーキですね。追いドラやドラ増しとも呼ばれていますよ」

「いえ、もうお腹いっぱいなんですよ……」

「あら? トオル様は少食だったのですね。気が回らず申し訳ありません」

「いえいえ、こちらこそすみません。よかったらこれも食べますか?」

「よろしいのですか! それではいただきますね」


『替え玉』

『追いドラ』

『ドラ増しwww』

『大食い聖女王』

『ジャイアント聖女w』

『ギャルソナに勝てそう』


「ありがとうございました〜」

「ふぅ〜。お腹いっぱいになりましたね」

「すみません、俺の分まで払ってもらって」

「いえ、聖女割りがありますので安いものですよ」


 聖女の特別割り引きなんてものもあるのか。


「まだ時間はありますので、次は私の部屋に来て下さい」


 おぉ、ラーナさんの部屋に突撃できるのか。

 聖女の部屋がどうなっているのか楽しみではある。


『事故に期待w』

『ラーナちゃんの部屋だと……』

『ここからR指定』

『やっぱり乙女ゲーかなw』

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