第三話 聖女のお部屋と聖女会議

「えい、ほっ、えい」


 俺は今、ラーナさんの部屋でゲームをしているのだが、不思議極まりない事がある。


『この子うまいな』

『懐w』

『私もこれやってた』

『聖女がマリンカート』

『曲がると同時に体も動くのは私も同じw』


「ラーナさん、何でこんなゲーム機まであるんですか……?」

「あ、これは以前召喚した勇者様から頂いたものです」


 勇者か、俺もそれでここに来たんだよな。

 これまでに何人ぐらい召喚したのだろうか?


「勇者は何人ぐらいいるんです?」

「まだ召喚を始めて間もないのですが、三名いますね。その内の一人が、トオル様と同じ黒髪と黒い瞳の方です。後はエルフとドワーフの方ですね」


 おぉ! つまり俺と同じ日本人がいるかも知れないという事か。一度会ってみたいな。

 

「今その勇者たちはどこにいるんですか?」

「ここジュネイル王都にいますよ。魔王領へ旅立つ予定なのですが、あと一人仲間が欲しいとの事で……」


 昨日の話では最後の一人って本来は俺だったな。

 ま、気にしない気にしない。俺、カメラマンだし。


「また来週には召喚の儀式を行いますよ」


 お、あの召喚を撮る事ができるのか。

 これは楽しみだ。


「また勝っちゃいました。まだ三十分ありますから、最後はこれで勝負です」


『ほら、やっぱ格ゲーw』

『しかも初期w』

『これも懐www』

『男子が好きなやつ〜』


 格ゲーとか中学時代を思い出すな。

 ま、もっぱら俺はゲーム機を解体する方が好きだったけど。


「また勝っちゃいました。次の対戦でお仕事に戻りますから、せっかくですし、最後は本気でやらせてもらいますね」


 つ、強い……ここまで一度も勝てずに十連敗。

 かなりやり込んでいるよな……。


「うおりゃッ! オラオラオラオラオラオラッ!!」

「…………」


 これが聖女の本気。

 ラーナさんは人が変わるタイプの様だ。


『聖女が部屋の中心で叫んでるw』

『悪役聖女わろたwww』

『伝説の36連コンボを初めて生で見たぞw』

『おらおら言ってる、ラーナちゃん可愛い』


 ◇


「本日は聖女会議がありますので会議室へ向かいます」

「その会議では、どのような事を話し合うのですか?」

「ふふっ、来れば分かりますよ」


 廊下に出ると、シスターたちと出会った。

 みんな同じ方へと向かって行くので、この人たちも会議に参加するようだ。


 俺は会議室全体が映るようにカメラを向ける。

 重厚感がある円卓のテーブルに、二十名のシスターがお祈りを捧げて着席した。


「それでは第389回聖女会議を始めます。本日の議題は、お布施をいただくためには、どの様な工夫をすれば良いのかを話し合います。提案がある方は挙手をお願いします」


『お布施www』

『怖えw』

『悪の秘密結社w』

『どこの宗教?w』

『やっぱ悪役聖女』

『聖女の皮を被った悪役令嬢』


「「「はい!」」」

「それでは手を上げるのが一番早かった、シスター・マリアンヌ」

「はい。今となっては熱心な信者は多いため、新規獲得はかなり難しいと考えます。そこで既存の信者に一日に一度のみならず、二度三度と通っていただく事が必要かと思います」

「「「おおおおおぉッ!」」」


 歓声と拍手が起きている。


「それは素晴らしい提案ですね!」


『何度も通わせるとか草』

『悪役シスターズ』

『信者乙』

『会社と同じ。お布施=売上』

『お布施至上主義』


 いつのまにか視聴者は三十名。

 すごく良い感じなんだけど、話し合っている議題がちょっと……。


「それでは他に提案がある者は…」「「「はい!」」」


 話し終わる前に全員が手を上げた。

 シスターたちは、かなりモチベが高いようだ。


「それでは、シスター・ヴィクトリア」

「わたくしの提案は、壺以外の物も販売する、というのはいかがでしょうか? 例えば、壺は銀貨一枚、花瓶は金貨一枚など、種類を豊富に出すのがよろしいかと」

「素晴らしい案ですね」

「なるほどですわ」

「花瓶はいいですね」

「水晶とかも良さそうよ」


『ばあさん、また買わされるんだろうな』

『鴨BAR』

『今来たばかりだから分からないけど、壺で何するの?』

『神託で壺を買わされる』

『悪徳商法』

『壺の押し売り』

『そういうことか……』



「それでは時間となりました。今回は、シスター・マリアンヌと、シスター・ヴィクトリアの提案を採用いたします」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 こうして聖女会議は終わりを迎えた。


「お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。それでは晩御飯の準備にかかりますが、本日はお部屋で作ろうと思います」

「ラーナさんは普段から料理をされているのですか?」

「はい、幼い頃から料理は手伝わされていましたので、かなり得意ですよ」


 ラーナさんって、まだ若いのにかなりしっかりしているよな。

 あ、そうだ。料理が得意なら料理配信もありだよな。

 せっかくだし、三分クックのように撮らせてもらお。

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