第四話 聖女の独り言クッキング

「ラーナさん、準備はいいですか?」

「え、えぇ、皆様に見ていただく様なものではございませんが、頑張りますね」

「普段通りで結構ですよ」

「少し緊張してきました。あの魔道具に向かって話しながらで良かったのですよね」

「はい、バッチリです。それではカメラを回します。3、2…」


 せっかくなので、フリー音源にあった三分クックのBGMをスマホで流しておく。

 

「皆様ご機嫌よう。私は聖女、ラーナ・エルフィオーネと申します。今日はジュネイル王都で古くから馴染みのある料理を作りたいと思います」


『修道服にエプロンwww』

『ベールを鉢巻代わりに巻いてるw』


「先にお伝えしておくと、このチャンネルをご覧になられている方は、きっと世界が違うと思いますので、材料の代替え案もお話させていただければと思います」


 さすが料理が上手い人は知識も豊富だ。

 代替え案も出してもらえる所は視聴者も嬉しいと思う。


「まずはワイバーンのもも肉をぶつ切りにします。ワイバーンのお肉が無ければドラゴンのお肉でも代用できます」


『もう代替え効かないw』

『あのモモ肉でけえ』

『牛のモモ肉丸々かな……?』

『ワイバーンって何?』

『魔物』


「包丁の扱いが苦手な方は、風魔法のウインドカッターを使っていただくと、この様に綺麗に切れますよ」


『すげえ手品w』

『まな板ごと切れてないか……?』

『いや、床ごと切れてるぞw』

『魔法の演出すげえ……』



「少し魔力操作を誤って床ごと切ってしまいましたが、気になさらずに次へ参りましょう」


『気にしろよw』

『本物の魔法に見えるな』

『CGすごい』

『編集上手いな』

『生配信だから編集じゃないよね?』

『って事はやっぱマジックか?』

『聖女という役柄のプロマジシャン?』


 ま、異世界から配信してます、なんて流石に信じてもらえないよな。

 でも続けていけば、いつかきっと、だな。


「大きめのお鍋に聖水を入れて火をかけます。あ、聖水が無ければ、お水に魔石を丸一日漬けておくといいですよ」


『聖水なんて無いw』

『だから代替えが無理』

『魔石の作り方を教えてほしい』

『そもそも聖水って料理に使うのか……』



「ワイバーンのお肉をお鍋に入れたら、お野菜を切っていきます。用意するのは、玉葱と人参とお芋とキャベツです。ブロッコリーもあれば良いと思います。全て一口サイズにカットしましたら、これもお鍋に入れます」


『速えッ!?』

『超高速切りw』

『見えなかった……』

『倍速じゃないよな……?』

『マジックの種はさて置き、肉じゃがでも作ってんのかな?』

『ポトフっぽい』

『ポトフ』

『ポトフ』

『ポトフ』


 視聴者さんの予想ではポトフを作っている様だ。

 料理ができない俺からすれば、こういう時にコメントが流れてくると助かるというものだ。


 それにしてもここまで一分しか経っていない。

 手際が良いなんてものではなく、あまりにも早すぎる……。


「この料理に欠かせないハーブを入れます。まずはローリエです。私はローズマリーも一緒に入れますが、ご家庭によってはオレガノを入れる人もいますよ。特に獣人族の方にオレガノはとっても好まれます」


『獣人族きた』

『出たケモ耳w』

『ケモ耳コスプレ見てみたい』

『私もポトフにオレガノ入れるけど獣人では無いw』



「弱火にして三十分ほどコトコトと煮込みます。その間に、もう一つお鍋を用意して塩を入れたお水を沸騰させます」


『あ、パスタか』

『パスタだな』

『普通に美味そう』

『スープパスタ』

『スープパスタ』

『スープパスタ』


 スープパスタか。

 何とも美味しそうな香りが漂ってきた。

 早くもパスタ抜きでいいから食べてみたい。


「今回使うのはショートパスタです。無ければスパゲッティーニなどのロングパスタでも結構です。アルデンティにしたら、おザルに取り上げます」


『アルデンティwww』

『アルデンテなw』

『おザルわろた』

『おザル』

『おザル』

『おザル』


「ポトフィのお肉がほろほろになって、お野菜がホクホクになれば、茹で上がったパスティと合わせます」


『ポトフィw』

『ポトフな』

『パスティwww』

『パスティに変わったぞw』

『じわじわくるwww』

『微妙に名前違うw』


「合わせましたら、ここで一度味見をします」


『普通に食い始めたぞw』

『味見という名の実食w』

『もう半分無いwww』

『味見はいずこへ……』


「あ、つい美味しすぎて食べ過ぎてしまいましたね。いつもの悪い癖です。では、ここで仕上げにかかります。ここが一番大事です。この料理のポイントと言ってもいいですね」


『液体窒素かな?』

『氷魔法っぽく見せてるのか』

『ガチの魔法とか……?』

『異世界の可能性』

『ここまではかなりリアルだよな』

『そんな事より、完成品は最初の半分の量』

『仕上げでまた味見して三分の一w』



「氷魔法でよく冷やしましたら、ここで思い切り粉砕して粉微塵にしてから、こねくり回して下さい。すると、この様なピザ生地ができます」


『ピザかよwww』

『まさかのピザ生地w』

『一瞬で出来たぞ……』

『やっぱガチの異世界じゃないのか……?』

『スープパスタでもなかった……』

『ポトフィ生地』



「このピザ生地を丸く伸ばしてから、上にトマトとチーズ、それからバジルを乗せてオーブンで焼きます。オーブンが無ければ、ファイアボールでも良いと思います」


『オーブンはあるけどファイアボールが無理w』

『最終的にマルゲリータw』

『これはこれで美味そう』

『マルゲリータ』

『マルゲリータ』

『マルゲリータ』


 何だ、マルゲリータだったのか。

 生地はかなり違うが、見た目はマルゲリータそのものだな。


「焼き上がったら、ソースとマヨネーズ、そして青のり

をかけて、郷土料理のマルゲリータの完成です」


『お好み焼きだろw』

『おこwww』

『最終的におこw』

『『『wwwwww』』』


「ぜひ皆様も作ってみて下さいね」


 ◇


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