第15話 無邪気な心をいつまでも

水菜の生まれた島は東にある孤島で、島周辺の海を潜ると、海底に沈んだ謎の古代文明の跡地があった。


幼い頃の水菜はよく水に潜り、この遺跡を見て回ることが大好きだった。


この場所は、ごく一部の遺跡巡りマニアにとっては名所となっていたが、考古学者たちはこの説明のつかない遺跡の存在を、まるでそんなものは最初から存在しないと言わんばかりに無視し続けた。


理由は、この遺跡の存在を信じてしまうと、それまで作り上げてきた考古学の常識を根本から覆してしまうからだ。


親からそのように聞かされて育った水菜は、この世の「常識」を守るために真実を隠蔽するという行為に子供心ながらに怒りを覚えた。


常識に囚われず、真実を追求することこそ、自分が大人になって力を持ったらやりたいこと…


科学が、その道を照らすと信じた…


________________



水菜とドーナツは、お互いに目配せをして、何かしらのサインを送っている。


チェンが語ったことは、企業秘密という言い方では生ぬるい。


この水菜とドーナツが絡んでいる核融合施設のプロジェクトは、国家機密レベルの、それこそ最高水準のセキュリティと守秘義務に守られている。


水菜もドーナツも、そこのところは心得ており、自分が関わるプロジェクトの情報は、関係者以外には一切他言していないし、関係者も一才他言しない。


として、情報漏洩には十分すぎるほどの注意がなされているし、関係者もこの出来事のせいで神経質なほど情報漏洩にはうるさい。


チェンには、この施設はあくまでも「エネルギー関係の会社」ぐらいの説明しかしていない。もちろん、研究室のある地下中央部までのアクセスも、彼には権限はない。


外で調べても、表向きは原発施設のメンテナンスを行う会社、という事になっているはずである。


プロジェクトの存在が外部の人間だとほぼ知り得ないような事なのに、さらにどこまで進んでいるのかの情報までチェンが言い当てたのは、まさに怪奇であった。


「西の天使の里…」


水菜がボソリと、しかしハッキリと聞こえる声でこう言った。


「…え?なんですか?いきなり…里?」


チェンは訳も分からず目を少し泳がせる。2人の様子がいきなり変わったことで、チェンは不安になった。


「西の天使の里…よ、少年スパイ君…」


水菜は鋭い目をチェンに向ける。


チェンは急に不安になり、自分が何らかの嫌疑をかけられていることだけがかろうじて分かった。


「えっ?え?なんですか?スパイ?」


〔ガハハ、めちゃ焦っとるやん、このガキンチョ。〕


水菜はモアイ君の反応を見て、目を細める。


モアイ君は嘘を見破るだけではなく、嘘はついていないが疑いをかけられることで不安になる気持ちの時も見分けられるように作られていて、そういった反応が見られた時にも何かしらの反応を出すように作られている。


要するに、チェンはこの時点で完全に「シロ」という事になる。


「モアイくん、100%信用できますかね、主任…でも、いくらなんでも、こんなにガチガチにしているのに、どうやって…物理的に無理がありますよ…」


ドーナツがフー、とため息をついた。


チェンは眉を寄せて首を傾げる。


「チェン少年、悪いんだけど、今すぐ私に付き合って来てくれないかな。」


水菜はチェンをじっくり見据えながら、いつもの軽い感じが全く消えた調子でチェンを誘う。


「主任、何をするつもりですか。」


「身体スキャンよ。すぐに終わるわ。」


水菜は二人についてくるように言って、二人はそれに従った。




第16話『チェンの身体能力』へと続く






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