第36話 新たな希望

 再開を果たしたプリン一行は、『バルト』で盛大な歓迎を受けた。


「愛する人のために、沈み浮く船にも飛び込んで来るたぁ、すげえ度胸だ!あんた、気に入ったよ!」


 歓迎の酒の席で一緒になった中年の親父がプリンに絡んできた。


「こら!サバド!俺のフィアンセに馴れ馴れしい口を聞くんじゃねえ!」


 シゲキが悪態をつくと、プリンは少し頬を赤らめた。


 ミルキーは酔っぱらって色々な人に絡んでいる。


 トレントはシゲキ船長の元で働くことを嘆願し、正式にシゲキ直属のクルーとして活躍することとなった。


 恋人がいると言っていたヤンは恋人に会いにいってしまったようで、『バルト』に移住したがっていたアインは「花魁~!」とか言ってどこかへ行ってしまった。


 それにしても、船が沈むと分かってから三年経っているが、みんなこうも明るいのはどういう事だろうか。


 プリンは不思議に思い、この事を尋ねると、シゲキは「みんな、今を精一杯生きて、最後を迎えようとしているのさ。」と言う。


 プリンは何となく分かる気がした。よくよく考えてみれば、プリン自身もそれを望んでこの船に来たのだから。


 この船に来て、良かった…


 何も、後悔することはない。


 聞けば、もう80年ほどのエネルギーしかないという。ケチケチして長生きするぐらいなら、短くても楽しく生きよう、ということで、船では少々の贅沢は許されていたからだ。予測では、このままいけば、後五十年ほどかもしれないと告げられている。


 そんな折…


 歓迎会も終わり、シゲキとプリンの同棲生活が始まったぐらいの時だろうか、『ブラックイージス』元船長のホッパーから、すぐにエネルギーの浪費を止めるようにとの申請が来て、緊急会議の要請が来ていた。


「なんだぁ?今更…」


 シゲキがボヤキながらホッパーの待つ会議室へと急ぐ。


 会議室には、故『ブラックイージス』のクルーたちが一同に集まっていた。


 この者たちは、『バルト』が今この状況に陥っていた事に責任を感じて、日中夜休まずにずっと仕事をしているような連中だった。


 主に、船内の電力の節約方法、節電用施設の開発、などを行っていたように思われるが、具体的な内容は知らない。


 シゲキは気にするなと言い続けてきたが、それを無視して働き続けた。


 特にホッパーは、過労で死んでしまうのではないかというほど鬼気迫る働きぶりだったと聞く。もっとも、医療技術の革新のお陰でそんな事はあり得ないのだが。


 そのホッパーが緊急収集とは、珍しい。


「一体、どうした?ホッパー船長、珍しいじゃあないか。」


「シゲキ船長、これをご覧ください!」


 ホッパーはホログラムで何かのシュミレーションを出している。


「資源を手に入れる目途がつきそうなのです!いいですか、あの、我々を苦しめたロードストーンの塊が、既にあの近くで複数個確認されています。高速回転機であの巨大な塊を回す装置をつくれば、相当な電力に変える事ができます。そして、それを元に核融合反応を誘発、そのエネルギーを元に…」


「ちょ、ちょっと待て、ホッパー。何の話をしているんだ。」


「だから、資源の採掘ができるかもしれないという話です。」


 どうやら、ホッパーの話によると、巨大なロードストーンを切り取り、回転機とコイルで電力に変え、それをエネルギー源として施設内のエネルギーを増大させ、それを使ってより太陽の近くの小惑星帯へ行って採掘を行う事が可能だ、ということらしい。


 スーパーフレアが起こった後、太陽はの出力は上がったが、状態は安定しているようで、ソーラーフレアは気をつけていれば当面は採掘においての心配はないだろう、と。


 それで、火星と木星の間にあるアステロイドベルト(小惑星帯)で採掘を行えるということらしい。


 しかも、太陽の出力があがったおかげで、氷の塊ではない小惑星帯となっていると予測されるようで、採掘も容易くなっているとのことだ。


 アステロイドベルト(小惑星帯)では、それなりに大きな小惑星も発見されており、ご丁寧に一個一個を調べて名前を付けていたらしい。とてつもない作業であったろう。


「いやいや、待て待て、俺たちは、もう余計なことはしたくないんだ。もうこのまま、終わりでいいじゃねえか。」


 シゲキがこう言うと、ホッパーは鼻息を荒くして、大きな声で叫んだ。


「もう、何もしないで誰かを死なせるのは嫌なんだ!!」


 その場にいる全員がビクっとなるほどの大きな声だった。


「わ、分かったよ。この事は、一応、『バルト』側の人も集めて相談させてもらうよ。それでいいか?」


 


シゲキはすぐに『バルト』の主要人物を集めた会議を開いた________




「いやあ、今更って感じもするけどなあ…それに、100%成功するってわけじゃないんだろ。」


「なんか、もう覚悟は決めていたし、いい加減、そういうのはもう疲れちゃったよ。」


「これまでも、十分長生きし過ぎてきたって、俺は思うぜ。船の中で生まれたお前たちはどう思っているのかは知らんけどな。」


 会議室の面々は、概ねシゲキとそれほど変わらないような反応だった。


 見かねたホッパーが皆を遮る。


「私に、やらせてください!極力皆様の手は煩わせません! 」


「ああ、それは構わないけど、今でも『バルト』の状況が自分のせいだと思っているのかよ。気にするなって言ったろう?それとも、そんなに死にたくないのか?」


 サバドは酒を飲みながらの参加だ。


「そりゃあ、死にたくないというのはありますが、それよりも、何もしないで状況が悪化していくのを漠然と待っている、という愚をもう犯したくはないのです。」


「だから、もうそれを気にしなくていいじゃねえか。俺たちだって、とっくに覚悟は出来てるんだから。」


「貴方たちはよくとも、生きたい人たちだっている訳でしょう。いや、貴方方だって本音は生きたいでしょう。


 会議室の皆が顔を合わせて、「お前どうなの?」という顔を向ける。


「………情けない。」


 しっかりと通った声で会議室に響いた声の主は、プリンだった。


「命を賭けて乗り込んだ船の男たちが、こんな腑抜けの集まりだったとは!」


 何人かの男はムッとしたようで反抗的な目を向けた。


「いいか、俺たちはもう、ここで良いと思ってるん…う!」


 タカのように射抜く視線にあてがわれ、その男は怯んだ。


「だから腑抜けだ。抜け殻のようにしか生きる事ができない人間に、尊厳などはいらん。まさか、私がこれから嫁ぐ予定の男もこのぐらい腑抜けているのか。」


 プリンはゆっくりと顔をシゲキの方へ向ける。


「ホッパー!俺たちは全力でお前を応援するぜ!」


 シゲキはいつになく快活にこれに答えた。






 第37話『幻の第五の船 (−光年のノマド− フィナーレ)』へと続く。










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