第34話 愛する人の元へ
簡素であるが、やけに手際の良かった新船長の静かな戴冠式を済ませると、いよいよ『ノースウインド』とはお別れとなる。
この船に行く末を見届けられない事は少し残念ではあるが、ここに来てプリンの決意は揺るぎないものとなっていた。
プリンがシャトルへ向かうために一歩建物を出ると、たちまち大観衆に迎えられた。
「な!?なんだこれは!?」
プリンは呆気にとられた。
「すみません、情報が漏れちゃって。なんか、船をあげて元船長を見送るって事になっちゃったみたいで。」
新船長のルドルフは苦笑いをした。
どこを見ても、見渡す限り人だらけ。最後にプリンを一目見ようと集まった者たちだ。
「お前…まさか人のプライベートな事情を船中に晒したんじゃないだろうな…」
「い、いやいや、シャトルの改造の事をマスコミが嗅ぎつけたようで、その、エンジニアたちが口を滑らせたようで…」
プリンは頭を抱える。
“船長〜、お元気で〜”
“末長くお幸せにー!”
“たまには俺たちの事も思い出してください〜“
“俺たちはしっかり繋いでいきますよー”
歓声に混じって色々な声が聞こえる。
賑やかな今生の別れもあったものだ。
「プリンせんちょ、じゃなかった、元船長、ここはビシっと何か言った方がいいのでは。」
促されたプリンは、ルドルフ船長の脛を蹴る。
「イッタ!な、何するんですか。」
「この船は、もうお前に任せたんだ。私がいつまでもデカい面するわけにもいくまい。」
プリンはそう言うと、観衆に手を振り、そのままシャトルへと乗り込んでいった。
シャトルに乗り込むと、今度は四人ほどのクルーが乗り込んでいた。
「あ、プリン船長、来ましたか!」
プリンはまたしても呆気に取られる。振り返ると、ルドルフが手を振っているが、ウインクしたようにも見えた。
「お前たち、ここで何をしている?まさか、一緒にいく訳じゃあるまいな。」
プリンは目を細める。
「え!?聞いてないんですか!?わ、私たちも、『バルト』に乗りたいです。」
「いや~、私も、『バルト』と頻繁に交流するうちに、あちらに恋人ができてしまいまして…」
「俺は、人生の最後はシゲキ船長に仕えたいと思ってな。プリン船長も行くというなら、尚更『バルト』に乗り込まなくてはな。」
「私は、元々『バルト』に移住したいと思っておりましたので。」
各々に行きたい理由を述べた。
「いや、お前たち、あの船はな、もうそんなに長くはないんだぞ。」
「長くないっていっても、延命処置をしない人間の一生分ぐらいは持つんでしょ?」
「そうですよ、そもそも、もうそんなに長生きしなくても俺はいいんで。」
どうやら、ここにいる皆はこの状況をよく理解した上で乗りこんでいるようだ。
やれやれ、といった様子でプリンは乗り込んだ五人を見つめる。皆が皆、生き生きとした目をしていた。
「よし、ランデブーポイントまで、このシャトルで三年といったところか。少々長く一緒に旅することになりそうだな。」
プリンはニヤっと笑う。
「プリン・ルービックだ、よろしく頼む。」
「「「「よろしくお願いしま~~す!」」」」
大声援に送られながら、シャトルは出発した。
その24時間後『ノースウインド』ハルモニアを目指して飛んで行った。
そしてシャトルには、『オムニ・ジェネシス』コズモ船長、『フェニックス』キルケ船長、『クルーガーランド』ジライヤ船長、そしてルドルフたち皆からの最後のメッセージが記録されていた。どうやら全ての船が飛び立った後で開封できるようになっていたようだ。
プリンはシャトル内でそのメッセージを開く。
―プリン船長、お疲れ様でした。これからは、自分の幸福のために生きてください。我々は、もう少し頑張ってみます。ありがとう、そして、さようなら。
メッセージには画像が貼りつけられていた。
船長会議で、全員が揃って笑い合っている様子の写真だった。
「一体いつ、こんな写真を撮っていたのか…」
プリンは懐かしむように、目を細めた。
さようなら、そして、ありがとう…
第35話『再会』へと続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます