第19話 新世界へのカウントダウン

 オムニ歴99年4月24日


『バルト』がホッパー救出のために長旅へ行ってしまい、半年ほどが経った。


 オムニ・ジェネシス、ノースウインド、クルーガーランド、フェニックス、の四隻の船は、すでに太陽から130AU以上は離れることができていた。


「スーパーフレアの完全シミュレーションが終了しました!磁力線の動きから、スーパーフレアが起こるのは今年の7月14日から22日の間です。予測範囲は全方向に対して最大120AU、若干の余波は予測されますが、このまま飛んでいれば確実に安全圏となります。」


 ティアナの報告を聞き終えたコズモは、会議を収集し、いよいよ始まる『ハルモニア移住計画』の日程を詰める。


 話し合いの結果、決行日は当初の予定通り、同年の5月25日となった。既にどの船も十分な反物質の蓄えとナビゲーションAIを完成させている。後は、全てがスムースに行くように最終点検をしてから出発だ。


「…『ブラック・イージス』の件は残念でしたな。我々はこれを教訓として、不要な民族間争いや宗教争いといったような事を速やかに解決させていく事を優先することが大事な事となるでしょう。」


 フェニックス船長のキルケは溜息交じりに呟く。


 それを聞いていたクルーガーランド船長のジライヤが、『ブラック・イージス』の最後を思い鼻を啜り始める。


「やめてくださらない。この場では感情を抑制できない行動は慎んでください。」


『ノースウインド』船長、プリンはジライヤをたしなめる。


「まあまあ、そう言わずに。『ブラック・イージス』の件、心を痛めているのはみんな同じなんです。それに、シゲキ船長がホッパー船長の救出に向かったのでしょう。もしかしたらホッパー船長だけなら助かるかもしれませんよ。」


 コズモがそう言うと、プリンの表情は面白くなさそうであった。


 加速のために一時的にコールドスリープ用のポッドに入っているシゲキたちだが、既に着いているはずだ。


 なのに、一向に連絡が来ていない。着いたら連絡する、と言っていたのに、だ。


「…約束を守らない奴は好きじゃないな。」


 プリン船長が突然ボソっと言ったので、皆がびっくりして振り向く。


「あ、いや、すまない。個人的な事だ。何でもない、続けてくれ。」


「それにしても…計算では、成功の確率は高いとされているとはいえ、やはり恐ろしいですな。一度コールドスリープに入ってしまえば、もしかしたら二度と出られないかもしれない。」


 フェニックスの船長キルケは厳しい表情を見せる。


「ええ、こればかりはどうしようも…」


 コズモも厳しい顔を見せる。


「でも、コズモ船長には感謝しなくてはいけませんな。このような計画が打ち出されていなかったら、スーパーフレア後の世界で、我々は野垂れ死にしていたことでしょう。」


 クルーガーランド船長のジライヤは、そういうとコズモに感謝の意を述べる。


 そんな時、突然ビーっと音が鳴る。


『オムニ・ジェネシス』からだ。


「何だ?まだ会議中だぞ。」


「すみません、『バルト』から通信を拾ったので、皆さまが揃っている時にお耳に入れておいたほうがいいかと…」


 ティアナと交代でオペレーターとして入っていたミミが恐る恐る喋る。


 船長たちは顔を見合わせた。そして、お互いに頷く。


「…つないでくれ、皆に聞こえるように。」


 通信が発信されたのは今から35時間ほど前のようだ。


 会議室に、懐かしい声が響く。


『こちら、バルトの船長シゲキです。私たちは、無事、ホッパー船長と合流することができました。』


 この言葉を聞いた瞬間、皆から安堵の息が漏れる。


『…しかし、我々は、皆さまと一緒にハルモニアへ向かうことが出来ません。』


 その瞬間、皆の間で動揺が走る。


 プリンの顔が一瞬で青ざめた。




 第20話『ロードストーンの塊」へと続く

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