第18話 カレーの約束

 通信が終了すると、シゲキ船長とプリン船長は言葉を失っていた。


 ホッパーの言う事が事実であるとすれば、ブラックイージスは恐らく船としては終わりであろう。もう何年も持たないような、そんな印象が残った。


 シゲキは、ハッとしたようにログを再確認する。


「この通信が発信されたのが、11時間ほど前か…まだ、間に合うかもしれん。」


「シゲキ船長…?間に合う、とは?」


「我々は採掘のため他の船と少しずれた位置にいる。しかも今は太陽から離れている最中ということもあり、現在地からホッパー船長が乗り込んでいる脱出用シャトルまで90AUほどと、偶然にもかなり近い。これぐらいならば、回り込んで彼らを救出してからハルモニアに向かっても、十分に余裕があるということさ。」


「まさか、迎えにいくつもりですか!?」


「『バルト』は他の船よりも小さいだけに、積む必要のある燃料も少ないが、何よりもここ半年の間に生み出した反物質は余剰分もあるぐらいさ。実は、他の船に分けようかなと考えていたぐらいだからね。彼らを迎えに行って、そのままハルモニアを目指すよ。今から向かえば、恐らくだけど、みんなが飛び立つ時期は同じぐらいの時期になるんじゃないかな。」


「そう、ですか…」


「図らずとも、『ブラック・イージス』のおかげで反物質エンジンでどのぐらい速く進めるのかを証明することもできたからね。加速力は全ての船の中でも一番だから、目いっぱい飛ばせば、半年以内で着くでしょう。」


 シゲキはこのように言っているが、プリンは、これはあまり良い考えではないような気がしていた。


「シゲキ船長、今はあまり余計なことにエネルギーを割くべきなのではないのではないですか。『ブラック・イージス』で起きた出来事のことは残念ですが、あれは自己責任であり、本来船長というのは、自分が舵を取る船を最優先に考えるべきです。」


 プリンのごもっともな正論に、シゲキは肩をすくめる。


「ええっと、何ていえばいいのかな。俺は、一応船のためを思ってこういう事をしているんだぜ。」


 プリンは首をかしげる。


「…俺たちは、人類最後の生き残りなんだよ。あんなに沢山いた人類も、ほとんどが死んでしまった。言うなれば、俺たちは託された希望なんだ。だから、尚更人間らしく、生きていこうって、俺はいつも呼びかけていたいんだ。損得でしか生き様を選べないなんて、そんなの人間じゃないだろ?」


 プリンは溜息をついた。


「言っていることが、支離滅裂ですわよ。」


 プリンはそう言うと、困った子どもでも見る母親のような目でシゲキの顔を見つめていた。


 その表情に、シゲキは見惚れてしまう。


「ええっと、プ、プリン船長!カレー好きですか!?俺、カレー作るのめちゃ上手いんですよ。隠し味があって…ええっと、そうじゃなくて、三百光年先で落ち合ったら、食べに来てください!」


「え!?」


 突然話が変わったことで、プリンは驚いた。


「それは、家に来いってことかしら?急に話が…」


 シゲキは言葉に詰まる。何でまた急にこんな事を言ってしまったのだ。俺は本当によく分からん。


 プリンはクスっと笑う。


「では、約束ですよ。カレーとは、女性を誘うには随分と変わった手法ですが、そのご自慢のカレーとやらを、食べさせてくださいますか。私は味にはうるさいですよ。」


「あ、ああ、お願いします!」


 そう言うと、シゲキは照れ臭くなり、サッサと部屋を出て行ってしまった。


 その後ろ姿が、プリンにはやけに印象に残った。





 第19話『新世界へのカウントダウン』へと続く


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