第14話 酔っ払いの戯言

 バターマンは急に無気力な様子になり、後はお前らに任せる、とだけ言い残して去っていった。


 何を無責任な…とカールはバターマンを止めようとしたが、ホッパーがこれを止める。


「彼には彼なりの正義があったのだろう。しかし今、船は危機的状況だ。こんな事をしている場合ではない。早く具体的な対策を講じよう。そして、誰も犠牲にならない事を願おうか。」


「民には、この計画で死者が出る可能性については…?」


「駄目だ、パニックになる。バターマンでさえ、この件を広く一般に広めるような事はしなかった。ポッドに入れば死ぬかもしれない、などと噂が流れたら、誰もポッドに入りたくなくなるだろう。それに、他船も情報統制している中、この船から情報漏洩に繋がりかねない事態は防ごう。」


「わかりました……それで、お前はどうするんだ?」


 カールは、バターマンの突然の退場にどうしていいのか分からずにいるソルの方を向いた…バターマンを追うか、このまま残るか。


「いや、わ、わたしは…」


 皆が彼の事をじっと見つめている。ソルは一度ドアの方を向いたが、決心したのか、皆んなの方を振り向く。


「…こ、ここに、残って、船の、いや、ホッパー船長のサポートを行なっていこうと思います。」


 ホッパーは軽く頷くと、すぐに会議が始まり、細かい計画案が議論される。ホッパーが仕切った。そして、会議が終了した次の日、国民に向けてアナウンスを始める…『ブラックイージス』に戦慄が走る。


 ____________________


 アナウンスが入る少し前、バターマンは『ブラックイージス』最後尾にある酒場で一人、飲んだくれていた。


 俺は間違っていない。認めない、認めないぞ…


 頭の中で、ずっとそれだけが鳴り響いている。認める事ができない…認めようともしない。


 皮肉にも、バターマンはヴィタラの民が苦しんだ「何を言っても認めてもらえない」という民族差別の在り方を、自らが体現してしまっていた。


「あ、あんた、バターマン船長だろ?こんなところで何やってるんだい?」


 酒場の客の一人が話しかけてくる。それを聞きつけた客の友人がバターマンを取り囲む。


「船長、お疲れっす。なんでこんなところにいるんですか。お忍びですか?この酒場がお気に入りとか。」


 こんな事を言っている一人を別の客が肘で叩く。


「おい、プライベート邪魔しちゃいけないだろ。」


「いや、いいじゃねえか、俺だって政治に興味が…」


「…俺たちヴィタラの代表として感謝の気持ちを…」


 何人かが集まり、騒がしくなってきた。


「…君たちは、ヴィタラか?」


 バターマンがボソリと呟く。


「そ、その通りです、船長!あなたはヴィタラの民の希望です!ありがとうございます!」


 バターマンは、フッと力なく笑う。酒も回っている。


「もう、船長じゃないよ。」


 バターマンの穏やかな一言に、一同が固まる。


「ど、どういう意味ですか!?」


「今はホッパー船長だ。俺はもう、用済みだ。」


「な、ホッパーが戻って来たのですか?あいつ、掴まっていたんじゃないですか!?」


「…くっくっく、もうすぐ俺たちはポッドに入ることを強要されて、口減らしに殺されるんだ…いや、もうどうでもいいか。」


 そういうと、バターマンは代金をし支払って、呆気に取られる連中をよそにそそくさと酒場を出て行ってしまう。


「…俺たちは、とんでもない事を聞いちまったのかもしれねえ…」


 酒場にいる男の一人がボソリと呟いた。






 第15話『大反乱』へと続く





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