第四話 カードゲームとフットサル
アルバイトの時間が終わった後のバックヤードで、バイト仲間とカードゲームに興じる日々を送りました。十八時頃にアルバイトが終わって、夜のスタッフと入れ替えになります。普通なら荷物をまとめて、すぐ帰宅するでしょう。しかし、夜間バイトの休憩時間になってもまだ、裏でカードゲームをやっているものですから、最初はみんな驚いていました。
主にカードゲームに興じていたメンバーは五人いました。バイト終わりのゲーム大会のみならず、休みの日や仕事上がりにみんなで遊びに行く日も多々ありました。飲みに行った回数や、近場のゲーセン・カラオケに行った回数は数え切れず。休日に待ち合わせてディズニーランドに遊びに行ったりもしました。当たり前ですが、全員、自分より近くに住んでいましたので、彼ら彼女らの家で遊んだ事もあります。後で知った話ですが、その仲間のうち、男性一人と女性一人は、こうした縁がきっかけで付き合うようになったそうです。男性の方が、何があったのかは詳しく聞いていませんが、突然塞ぎ込んで家から出なくなってしまい、女性の方からSOSがあって、その時に実は付き合っている、という話を聞きました。みんなで彼の家に行って、少し話をして。男女関係はそれで終わってしまった様子でしたが、彼も何とか立ち直れたみたいです。
このようにして仲良くなったアルバイトの一人、仮にX崎君としておきましょう。彼に誘われて、熊谷駅の少し北側を走る国道十七号沿いにあるフットサル場を訪れました。色々な話をしていましたので、彼も自分がサッカー好きだと知っています。X崎君は最初、あまりサッカーには興味がなかったようですが、この前後にワールドカップがあって、サッカーの試合を観て好きになったそうです。元々、スポーツ全般や、体を動かす事が好きだった。そんな話をしてくれたと記憶しています。この間フットサルをやったよ、武藤君も一緒にどうかと。そのような形で誘われました。
初めて参加した時は、暫く運動もしていなかったので、すぐ筋肉痛になって大変でした。数十分のプレーで体力は限界です。週に一回、フットサル場を一時間か二時間ほど借りて遊ぶのですが、全く付いて行けませんでした。毎週のフットサルを楽しんでいる間に、やがて体力も増え、だんだん周囲に付いて行けるようになりました。
X崎君とは、プレーの中でも呼吸の合ったプレーが出来ました。一例を挙げましょう。アウト・オブ・ザ・プレー、ボールがラインを割って、コーナーキックになった時です。フットサルは狭いコートですから、ほとんどの場合、コーナーキックで高いボールは蹴りません。ゴロでゴール前に入れます。キッカーと自陣のゴールキーパーを除き、八人ほどがゴール前に入り乱れます。つまり、ほとんどスペースがありません。その時のキッカーは自分でした。コーナーにボールをセットする素振りのままゴールの方を見ると、X崎君が相手マークを連れて、中央やや手前にいました。自分が棒立ちのX崎君に向かって、「う・ご・い・て」と口パクで合図を送ると、X崎君がスッとニアサイドに寄って来ました。その瞬間、鋭く強いグラウンダーのパスを送り、走り込んできたX崎君が上手く合わせました。惜しくもゴールにはなりませんでしたが、そのプレーがあった日の帰り、「あれがアイコンタクトってやつだろ?」と満面の笑みを浮かべていたのを、よく覚えています。
もう一つぐらい、今度は自分が上手く出来たプレーの話をしましょう。そのフットサルコートで、ちょっとした大会がありました。自分とX崎君のいるチームも出場しました。バイト仲間も応援に来てくれました。自分はスタメンではなかったと思います。フットサルは狭いコートで動き回らなければいけませんので、かなり体力を使います。自分も交代で出場する機会を得ました。五人のメンバーのうち、右サイドを担当しました。X崎君が前、中央に一番上手い人です。右サイドでボールを受けた自分は、正面にいる相手ディフェンダーの鼻先で中央の味方に軽くパスを出しました。ボールに気を取られた相手ディフェンダーの裏を取って、そのままゴール前に走り込み、足元を指さしながら「ここ! ここ!」と声に出してボールを要求しました。中央の上手い人は、自分の欲しい位置に丁寧なワン・ツーパスを出してくれました。一瞬溜めてから、スピードを殺さず、そのままダイレクトで打てる位置に。だから自分は、キーパーの動きを確認しつつ、リターンパスをゴールに向かって蹴り込むだけでした。応援に来てくれたバイト仲間も喜んでくれて、試合終了後にみんなで記念撮影をしました。
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