第01話、鬼狩りの威吹鬼①


 ――昔、約束をした。


 閉鎖的な村だった。

 食べ物も自給自足で、別に野菜を育てていれば空腹に困る事はなかったのだ。

 しかし、この村ではある風習がある。

 『生贄』の風習だった。


 選ばれたのは、大切な友人だった。


「大丈夫よ、きっと……また、会えるわ」

「それって生まれ変わってって事?私、信じないよそんなの」

「もう、――ったら!」


 昔の名は、既に忘れてしまった。

 しかし、それでも、友人の約束は忘れてはいない。


 友人は、『贄』になってしまった。

 同時に、その『贄』は――。



「あああぁああああぁッ!!」


 次に目を開けた時、その村には誰も残っていない。

 食べられたのだ、『鬼』に。


 友人が命をかけて守ろうとした村を、簡単に、あっけなく、殺されてしまったのだ。

 『贄』を差し出す場所に、別の『鬼』が現れ、そこの住まう『異形』と共に、『贄』を屈辱し、喰って、そして村を襲った。


 ――あの子の姿は、もう居ない。


 炎に包まれた故郷の村は喰いつくされ、一人になった少女の瞳には、ただ復讐の炎が燃え上がり――。




「俺を殺したいか、小娘」




 死ぬほど殺したいと願う相手が、ちょうど目の前に居るのにかかわらず、何もできなかった。








 ――20××年、東京


「うっ……今日もずっしり、くる……」


 大きく、長細い荷物を抱えながら、少女――威吹鬼は青ざめた顔をしながら歩き始める。

 新幹線を降り、大阪から東京に来るのに時間がかかってしまったなと思いながら、威吹鬼は携帯電話をいじる。

 携帯電話を弄って数分後、威吹鬼の足が止まる。



「威吹鬼ちゃん!」



「あ……葉月」 


 笑顔で手を振って走ってきた少女、百目鬼葉月に威吹鬼が顔を上げる。

 どうして彼女が自分が下りる駅の近くに居るのか全く理科出来ないでいたのだが、彼女はお構いなしに威吹鬼に近づき、笑顔で挨拶をする。


「こんにちわ威吹鬼ちゃん。迎えに来ちゃった」

「迎えにって……私は別に大丈夫だよ?」

「そんなに大きい荷物に、キャリーケース引いてるのに?」

「…………重くは、ないよ?」

「さっき重いって呟いてた!」

「ちっ……」


 葉月は威吹鬼のキャリーケースを無理やり奪い取り、歩き出す。

 取り戻そうと手を伸ばそうとしたのだが、葉月は強引だという事はわかっている。

 ため息を吐きながら、キャリーケースは彼女に任せ、そのまま葉月の後をついていくことにしたのだった。



 葉月と威吹鬼。

 この二人の出会いは、二か月前に遡る。



 そもそも、威吹鬼は百目鬼葉月と言う存在の事は前々から知っていた。

 嘗て葉月の母親、百目鬼紫月どうめきしづきと出会った事があり、『異形』に襲われそうになった彼女の事を助けたのがきっかけである。


 『鬼』――それは、この世界では異形たる

 『鬼』は人を食べ、人の生き血を吸う存在。

 そのような存在が、一体どこから生まれたのか、誰も知る事がない。

 しかし、

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