不死の鬼の少女は世界が滅びても、贄の少女を守ると誓う。
桜塚あお華
第0章、鬼狩りの少女、威吹鬼
第00話 少女は鬼狩りの少女と出会う。
「葉月、この世界にはね……『鬼』って言うのが存在するのよ」
「お母さんね、昔小さな女の子に助けてもらった事があるの」
「必ずどんな事があっても、守って見せるって……女の子なのに、一生懸命戦って戦って……でも結局最後には、あの子は傷ついて終わり」
「お母さんは、あの子を助けてあげる事が出来なかったの……もし、葉月がその子に会ったらお母さんの代わりに、謝ってほしいの」
「お母さん、もう長くないから」
母は笑顔でそう言った数日後に、息を引き取った。
穏やかで、優しい笑顔をした顔で――満足そうにしていた。
母親が死んでからは、父親が男一つで育ててくれた。
仕事が忙しくても、家族の事を大事にしてくれる、葉月にとってはとても優しい父親であり、祖父も、祖母も、親戚の人たちも本当に優しかった。
葉月にとって、彼らは最高の家族だった。
そんな彼らに見守られながら、葉月は高校に進学する。
高校でも不自由なく、平凡たる日常を送っていた――はずだった。
歯車が狂い始めたのは、あるアルバイトの帰り道。
少しだけ遅くなってしまった事もあり、早く帰ろうと早足で暗い道を歩いていた時、突然声をかけられたのである。
「よう、百目鬼!」
「え……あ、加藤君?」
「そうそう、
声をかけてきたのは加藤学と言う普通の男子生徒だ。
しかし葉月は彼に関しては何も知らないし、話したこともない。
その相手が何故葉月に声をかけてきたのか疑問を抱きつつも、人通りが全くないこの道に居るのが怖かったので、葉月は急いでその場から離れる為に、簡単に加藤に別れを告げる。
「ご、ごめんね加藤君。私、家に帰らなきゃいけないから……」
「まぁまぁ、そんな事言うなって。これから家に帰るって、用事でもあるの?」
「別に用事はないんだけど……ただ、遅くなっちゃったし……」
「なら俺と一緒に遊ばない?近くにカラオケ店があるんだけど」
「いや、私は――」
正直乗り気ではないし、目の前の男子生徒の事はあまりよく知らないから関わり合いたくない。
どのようにしたらこの場から離れてくれるだろうか、と思っていた時、葉月ですら予想もしなかった出来事が目の前で起こったのだ。
「が、は……ぁあ?」
「え……」
突然、目の前に居た加藤学の口から生ぬるいモノが吐き出された。
一瞬、葉月は目の前の光景が何なのか、信じられなかった。
加藤も、自分の身に起きた出来事が何なのか、わからなかったのである。
「あ、い、いた……い?」
加藤はそのように呟いた瞬間、突然その場に崩れ落ちるように倒れていく。
そして、加藤の周りには徐々に広がっていく赤い液体のようなモノ――葉月はすぐさまそれが、加藤学の身体の中から流れている血液だという事を理解したのである。
「……ひっ」
目の前で倒れた加藤は既に動かなくなっており、間違いなくその場で命を落としたと理解出来る。
目は見開き、まるで葉月を見ているようだった。
青ざめた葉月は一体加藤に何が起きたのか理解できず、すぐさま目線を変えると、そこには一人の大男が立っている。
大男が右手に持っていた『何か』は真っ赤に汚れ、そしてその男はその持っていたモノを口の中に入れ、動かす。
「う、うぇ……」
大男が持っていたモノは加藤の『心臓』だ。
胸が抉られた、と言う事を理解した葉月はその場で動く事が出来ず、口から吐き出しそうになったのを急いで手で抑える。
(何、何が起きたの?)
(加藤君は倒れて、ち、血が出て……目の前の『アレ』は何?)
(ま、まるで……)
――葉月、この世界にはね……『鬼』って言うのが存在するのよ
ふと、母親の言葉を思い出した葉月は再度顔を上げると、目の前に先ほどの大男が彼女に鋭い視線を向けている事が分かる。
(……ころ、されるの、わたし?)
もしかして、このままあの世に逝ってしまうのだろうか?
そんな事を考えながら、葉月はこれから来る痛みに恐怖しながら、目を強く瞑った。
花の香りがした。
ザシュっという音と共に、葉月の前に静かに足音が聞こえる。
待っても痛みなど来ず、何が起きたのか理解できない葉月はゆっくりと重い瞼を開けると、先ほどの大男がその場に崩れ落ち、ゆっくりと消えていく姿を目撃するのである。
それと同時に、葉月が目にしたのは、一人の黒髪のショートカットの少女だった。
少女は大きな大剣を持ちながら、目を開けた葉月に視線を向けている。
「大丈夫か、百目鬼葉月ちゃん?」
少女は淡々とした態度で葉月に話しかけたのだった。
これが、葉月と、そして鬼狩りの少女、
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