029:文化祭前日――目がギンギン

『――ということで前日の準備お疲れ様でした。明日の文化祭に備えて真っ直ぐに家へ帰り、十分な睡眠を取ってくださいね。夜更かしは禁物ですよ。それと十分すぎる睡眠を取ってしまい遅刻するのもNGです。では皆さん明日の文化祭は全員で成功させましょうね』

『校長先生ありがとうございました』


 校長先生の話が終わった。

 いよいよ明日が文化祭か。

 十分な睡眠だって? 取れるはずがない。

 だって小熊さんとチェキが撮れるドキドキの文化祭だから。

 ここ最近はご当地アイドルIRISアイリスのイベントがなかった。最後のイベントは純平と一緒に観覧したあのイベントだ。それ以来一度もイベントがなかった。

 だから余計に楽しみなのだ。

 ただでさえご当地アイドルIRISアイリスのイベントの前日は眠れないのに、小熊さんと一緒の文化祭だぞ。眠れるわけがない。

 きっと終わったあとも余韻に浸りすぎて眠れないんだろうな。

 その次の日も、また次の日も。そして永遠に眠れない体に……。

 それも悪くない。眠れない時間は小熊さんのことを考えていればいいからね。

 天使や女神を凌駕するくまま様を拝む時間が増えたのなら、むしろ喜ぶべきだろ。


「隼兎。もう解散だぞ? 帰るぞ」

「あっ、えっ……うん」


 もう解散か。そりゃそうか校長先生の話が最後だもんな。

 色々と考えてて聞いてなかったわ。


「てかお前、目がギンギンじゃんかよ。今日寝れないんじゃね?」

「え? 寝るって? 何それ? 何だっけ? 初めて聞いた言葉だ」

「あ、ダメなやつだわこれ。楽しみすぎて一睡もできないパターンか」

「一睡もできない……?」

「もういいわ。明日倒れんなよ。って言っても小熊とチェキ撮った瞬間に倒れそうだけどな。まあ、それは睡眠取ってても同じことか」


 小熊さんとのチェキか〜。楽しみだなぁ。

 イベントとはまた違ったチェキ。

 コスプレ衣装もたくさんあるだろうから、ツーショットチェキ全種類コンプリートしたい。


「うわぁ、隼兎くん、目ギンギンじゃんっ。大丈夫」


 小熊さんの可愛らしい声が僕の鼓膜を振動させた。そのまま心臓の鼓動を早くする。

 心地の良い声はまさに天使のようだ。いや、それ以上の存在。くまま様だ。


「明日が楽しみすぎて寝れそうにないっぽいよ」

「そうなんだ〜。私も楽しみで寝れないかも。純平くんはどう? 寝れそう?」

「あ? 俺か? 俺は全然寝れるね」

「そっか。すごいね。あっ、明日の文化祭、れおれおが遊びに来るってよ」

「な、なんだって!!!! れ、れおれおが! れおれおが文化祭に来るだって!?」


 おっ、れおれおも来るのか。それは楽しみだ。


「うん。さっき連絡があったの。純平くんにも伝えようと思ってさ」

「やばい。寝れないかもしれない」

「ちなみにお客さんにも衣装の貸し出しうやる予定だからさ、もしかしたらコスプレしたれおれおとチェキが撮れるかもよ」

「な、なにー!!!!!」

「純平くんもお揃いのコスプレしたらすっごく記念になると思うよ。警察官と囚人服とかさ。ふふっ」

「や、やばい……そ、それは楽しみすぎて……寝れな……あれ? 寝るって何だっけ?」

「さぁ〜。知らないっ」


 小悪魔のように微笑む小熊さん。いつ見ても可愛いなぁ。天使よりも天使すぎる。

 それにしてもさっきから『寝る』とか聞いたこともない単語が会話中に聞こえたけど、一体なんなんだ?


「2人とも目がギンギンのバッキバッキだよ。冗談抜きでしっかり睡眠取ってねっ」

「「睡眠?」」


 僕と純平の声が重なった。

 小熊さんが言う『睡眠』というものは、きっと天使や女神を凌駕する存在のくまま様にしかわからない言葉なのだろう。

 地上の人間である僕たちには到底理解できないものだ。


「それじゃまた明日ね〜。ばいば〜いっ」


 小熊さんが手を振りながら去っていく。

 その姿は天へと帰っていく天使のように見える。

 このまま僕を天国まで導いて欲しいけど、僕はまだ天国には行けない。

 明日の文化祭で小熊さんとツーショットチェキを撮るまでは。

 その目的を果たしたら、天国へ行こう。

 むしろツーショットチェキを撮ること自体が天国だ。

 僕の考えは間違っているだろうか?

 ちょうど親友が隣にいる。聞いてみよう。


「ねぇ、純平」

「どうした? 隼兎」

「明日の目的地って天国で間違いない?」

「おう。間違いない」


 やっぱり僕の考えは間違ってなかった。

 天国か。すっごく楽しみだ。

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