030:目の下のくまま
今日は文化祭開催日だ。
緊張と興奮で一睡もしてない。
なぜか睡眠という言葉を忘れていた時間があった。
思い出したときには時すでに遅し。もう朝だった。
一晩中何をしていたかというと、くままとのツーショットチェキを眺めながら、文化祭ではどのようにチェキを撮るかなどの想像を膨らませていたんだ。
結局一晩使っても具体的な作戦やシチュエーションなどが閃くことはなかった。
どんなに想像を膨らませたとしても、小熊さんの魅力をどうこうすることなんて、僕にはできないということだ。
あふれんばかりの魅力を全身全霊で受け止めて、その時の流れに身を任せるしかないという結論にも至った。
「お兄ちゃん。文化祭遅刻するよ」
妹の兎衣が催促してくれた。確かにこのままだと遅刻していたかもしれない。
小熊さんのことを考えてると時間を忘れてしまうなぁ。
さすが時間をも自由自在に操るくまま様だ。
「って、クマ酷いね。寝れなかったの?」
「え? くまま?」
「言ってない。言ってない。クマだよ。クマ」
「くまま?」
「だからクマ! 目の下のクマ! 黒いやつ!」
「目の下のくまま? 黒いくまま?」
「あの女の話はしてないから! もういい」
「……そ、そっか」
なぜか妹と話が噛み合わない。それに不機嫌になっているようにも思える。
兎衣が不機嫌になった理由を考えてみたが、答えは見つからなかった。
だから僕はそのまま家を出ることにした。
「それじゃ行ってくるわ」
「うん。行ってらっしゃい」
いつもは一緒に登校するのだけど、今日は土曜日。兎衣の中学校はもちろん休みだ。
だから登校するのは僕だけ。
ちょっと寂しい気持ちになったけど、一歩踏み出した瞬間、文化祭への期待が高まり鼓動が早くなった。
そんな時だった――
「お兄ちゃん!」
僕を呼び止める兎衣の声。
どうしたのかと僕は振り返った。
そして目と目が合った瞬間、兎衣が口を開いた。
「と、友達と、あとで行く……かもしれないから。文化祭」
「あっ、うん。時間があったら来てね」
兎衣が文化祭に来てくれるのか。
より一層楽しみになってきた。
もしかしたら小熊さんと兎衣のツーショットチェキが見れるかもしれない。
それは推しとして兄として最高のツーショットチェキではないか!
この際、小熊さんと兎衣のツーショットチェキを100枚集めるってのも、新たな目標に立ててもいいかもしれないな。
これは絶対に来て欲しい案件だ。来てもらえるように笑顔で家を出るとするか。
「それじゃ。またあとでね。兎衣が来るのを楽しみに待ってるよ」
「あっ、うん! 行ってらっしゃい!」
さっきより元気な『行ってらっしゃい』だと感じた。
雲ひとつない空のような。もやもやがないような。そんな感じの元気な声だ。
そんな妹の『行ってらっしゃい』に背中を押されて僕は家を出た。
向かう先は僕が通う高校――あやめ学園高等学校。
ドキドキの文化祭が開催される僕の高校だ。
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