出会い



「陽、お前別のとこ行けよ」



間髪入れず、そんな言葉を翔真は告げた。



「……えっ、いや私抜けるよ? バレー部の友達のとこ行くし」

「美咲が抜けるならワタシも抜ける~」


「――朝日」

「あ、ああ。大丈夫。大丈夫だから。俺が抜けるから」



冷たい鋭い声が俺を刺す。

背後。俺だけに聞こえる様に。


泰斗のそれは――明らかに、“友達”に対するモノじゃない。



「それじゃ食材とか色々取ってくるからな。美咲、一緒に行くぞ」

「頼んだぜー泰斗! 陽はさっさと別のとこ探せよ」


「え……ごめんね陽君、だいじょ」

「——陽と泰斗なんて良いから! 美咲ー写真とろ〜!」

「わっちょっと待って」

「真由お前な……そういうのは後にしろ!」


「……」



美咲以外は、俺をまるで居ないものの様に扱って。


四人グループとは言うが、別に五人でも大丈夫だ。

あくまでこれは、校外学習後のご褒美イベントみたいなもんだし。


なんならこれまで何回もそういう機会があった。

ずっと、俺達は五人だったから。



「おい、見たかよ陽の顔」



後ろ。

聞こえる、笑いを含んだ翔馬の声。



「っ」



バキッ――と。

これまでの何かが。

積み重なって、俺の中で割れた気がして。



「……」



そのまま俺はフラフラと、クラスメイトの中に混じろうと歩く。

一応、ほぼクラス全員と話したことはある。

仲が良いとはいえないが、ただのクラスメイトでもないはずだ。



——「……あれ、朝日だ」「どうしたんだろ朝日君」「アイツ何やってんだ?」――



そして向けられる視線と声。

『ちょっとあぶれたから入れてよ』……口にしようとして、固まる。



——「まあいいや、オレ取ってくる」「私バーベキュー久しぶり!」「火点けよろ~」――



既にグループは確立されて、バーベキューは始まっていた。

パッと見じゃ大体四人組。俺が入る余地などない。


そして、近付いてくる足音。



「——おい朝日、お前一人なのか」


「……は、い」



見回っていた先生が声を掛けてくる。

声が一瞬出なかった。



「? おっそこ三人だろ。お前入れてもらえ」

「え」


「ひゃっ!?」

「ど、どうしよか……」

「」ビクッ



向けられたのは、明らかに合わなそうな少女達だった。


話した事はほとんどない。

でも、クラスメイト全員の名前と顔は覚えている。



鈴宮すずみや みずき』……ずっと机に向かって勉強している子。強い癖っ毛の長髪と眼鏡が特徴的だ。


木原 愛花きはら あいか』……関西出身の子。自己紹介では、頑張って標準語を使っていたけれど今は違う。ボブヘアーに長い前髪。確か漫研部だったかな。


柳 一姫やなぎ いつき』……声を聴いた事がない。教室にもあまり居ないせいで、このグループに居たのも初めて知った。

灰がかった、色素の薄い黒のミディアムヘアーだ。珍しい髪色と思った記憶がある。



「お前ら火点けかない所は言え、キャンププロの先生達が行くからな!」



立ち尽くす俺にお構いなく、進行していく先生に何も言えず。

そのまま居心地が悪すぎる時間が流れていく。

気持ちの悪い、冷たい汗が背中に流れていく。


……なんでこんな事に。

でも、このまま一人というわけにもいかない。


目の前、固まる三人にも悪いし。



「ごめん。邪魔してもいいかな……」



ひたすらに気まずい。

全く関わりなんて持たなかったグループ。しかも女子。


でも、もう既に周りは開始ムード。

ここにお世話になるしかないわけで……。



「だ、大丈夫ですよ……だよね愛花ちゃん」

「! お、おん。しゃあないんちゃうか……」


「」ジトー

「一人不服そうやけど……」

「ちょっとヒメちゃん!」


「はは……」



なんか滅茶苦茶嫌がられてる気がする。

特に柳さんの顔とか特に。


……いや、気のせいじゃない。

雰囲気も俺の茶髪も明らかに浮いてる。

きっと居る場所が違う同士だ。


カーストは――いや、今の俺はグループにも属してないから論外か。

未だにそう考える自分が嫌になる。

そんなんだから、俺は……。



「だっ、大丈夫ですか? 顔色悪いですけど」

「! あ、あぁ……ごめん」


「う、うち肉とか取ってくるわ」

「あっ!」

「!? な、なんや」



思わず声を上げてしまう。

今は翔馬達と居るわけじゃないのに。



「ごめん。俺取ってくるから。大丈夫だよ木原さん」

「? じゃあ頼むわ……えっと、えー……」



これ名前知らないな。

俺、一応“あの”グループに居たんだけど。


やっぱり、“薄い”んだろう。

居る位置がどこだろうが結局自分なんだし。

……そう考えても、少しショックだった。



「朝日だよ。よろしくね」

「! す、すまん。男子の名前ほとんど知らんくて……」

「全然良いよ、それじゃ」



別に謝らなくても良いのに。

なんというか、翔馬達と違い過ぎて変になりそうだな。







▲作者あとがき


最初は重くてすいません。

次話あたりから軽くなります。

というわけで夕方頃にもう一話!

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