愉快な三人



――「全然火付かないんだけど……」「お前下手かよ」「せんせーこっちー!」――



両手に人数分のバーベキュー具材を受け取って、あちこちでグリルを囲む生徒達を避けながら進む。


皆楽しそうだ。

だから、翔馬達の方には目を背けた。

きっとあっちも、俺抜きで楽しくやってるだろうから。



「はぁ……」



あの鈴宮さん達も、俺なんかが割り込んでこなかったら楽しくやれたんだろうな。

そう考えると心が痛む。


……こんな事なら、一人の方がマシ――



「――ごっ、ごめんなさい! 一人で持たせて!」

「!? 鈴宮さん、なんで?」

「いいいやいや悪いです! 朝日君だけに行かせるなんて」

「え……」



突然、彼女が横に居た。

追いかけてきたのだろう。


一瞬、理解が出来なかった。



《――「お前取って来いよ」――》



いつもこういう時、翔馬に一人で行かされていたから。

一緒に行くなんて選択肢が無かった。



「あー、大丈夫だよ。席戻っといて」

「でっでも……」

「こういうのは、男の役目だから」

「そ、そうでしょうか……」

「うん」



慣れてるし。

誰かに手伝ってもらうというのが、むしろ心地悪いまである。


……その気持ちだけで良い。

十分過ぎる程に。



「?」

「なんでもない、着い――」



俺の表情がどうなっているのか怖くて、彼女から目を背けた。

そのまま歩いて、目に入った光景は。



「あーアカン全然付かへん火! すぐ消えてまう! なんやこれ!」

「」スパー

「燃えてる枝タバコみたいにすんな! 遊んでないで手伝えアホ!」



中々に混沌とした状況。

苦戦している木原さんと、遊んで? る柳さん。


何やってるんだアレ……。



「」フッ

「なに笑ってんねんこら! えーからその枝この中に――」

「」ポイ

「あっ……い、一瞬で消えてもうた」

「」ジトォ

「これうちが悪いんか……?」



木原さんってあんな話すんだ。

教室じゃあんまり声とか聞こえてこないから意外だ。


柳さんも喋ってないのに感情表現が豊かだ。


ちょっと……話しかけにくいけど、仕方ない。



「あー。木原さん?」

「ッ!? あっ、あぁす、すまん。火付かんくて、な」



話しかけたら一気に声が小さくなった。

……普段の彼女達は、もっとはっちゃけてるんだろうな。


嫌でも分かってしまうんだ。

明らかに、俺がこの中で邪魔だということが。

彼女達の楽しい時間を奪っている事実が。



「俺、火起こしやるよ。三人は……お皿とか飲み物とか準備してくれる?」



それだけ言って、俺はバーベキューコンロの前に。

学校の机よりかは一回り小さい、普通のモノだ。

これなら、翔馬達と夏休み行ったところとほぼ同じ。


“一人で十分”――そんな雰囲気で俺は言った。

三人は、三人で居てくれと。



「え、ええんか?」

「うん。慣れてるから任せて。軍手あるとはいえ、手汚れるから」


「……」

「お、おん。みずき、やるで」

「わわっ、わかった。お皿分けるね!」



きっと彼女達で別の準備をした方が良い。

俺は一人で火起こし――これがきっとベストな状況。



「さてと――」



コンロの中、木原さんが積んでいた炭を退けて隅にやる。

火が付かなかったのは、炭を敷き詰めてしまっていたからだろう。


着火剤を真ん中に置いて、空気の通り道を作るように炭を着火剤に立て掛けるように置いていく。

最初の火種は少なめで。



「……ふぅ」



着火機で、炭の中の着火剤に火を付けて後は放置。

この状態の炭を変に突いたり、うちわで風を扇いだりはしなくて良い。


夏休みの時は、それを知らなくて中々苦労した。

嫌なことを思い出す。



《――「早く点けろよ陽! ヘタクソ過ぎだろ」――》

《――「お前は火も点けれないのか?」――》



八月に行った、キャンプ中のバーベキュー。

思い出す翔馬と泰斗の声。


後ろで急かされたから余計に、早く点けと風を起こしてたっけ。

今思えば逆効果だった。


まあ今は急かされることなんて無いけど――


「」ジー

「……」


いや、そんなこと無い!

柳さんにめちゃくちゃ見られてるんだけど。


手伝いしてるんじゃなかったのか?


見ればその手にうちわを握り締めている。

まさか……。



「……ごめん、もしかして火起こししたかったの?」

「」プイ

「あー……」



そっぽ向かれた。

でもまぁ、あの感じは肯定として良いのかな。



「!」

「燃え始めたね……扇いでくれる?」

「」ブンブン

「そうそう。あっ強すぎ」

「……」ピタッ

「弱すぎだね……」



流石にあの二人のとこ行かないの? なんて聞けず。

というかずっと無言だから反応が怖かった。


アドバイスを送りながら、どんどん火を広げていく。



「炭、追加しようか。一回燃えてる炭崩すね?」

「ぁ……」



えっ今一瞬喋った?

小さ過ぎて聞き取れなかったけど――



「」ペコ



と思ったら頷く彼女。

……気のせいか。



「」ジトォ



……い、良いんだよな?

崩して、平らにした炭の上に新たな炭を積んでいく。


「扇いでくれる?」

「……」パタパタ


あ、扇いでくれた。

言葉無しでも意思疎通できるんだな。意外と……。



「あっすごいよ愛花ちゃん! 凄い燃えてる!」

「ほ、ほんまやな……」



そして、二人もこちらを見に来た様だった。


……ちょっと気まずいな。もう少し時間掛けた方が良かったか?

これじゃ木原さんへの嫌味みたいになってしまう気が――



「」ニヤニヤ

「なぁヒメ煽っとんのか? 煽っとんのか?」

「」ペコ

「ペコやないねん!」

「ちょ、ちょっと愛花ちゃん(失笑)」

「……」



ほんとに仲良いんだよな? この三人……。

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