第3話 今後の方針
城門に戻ってきた男は持ってきた生首を先程殴った男の前に転がす。
「これは……、ブュエルの首ではないか!」
「こいつはブュエルと言うのか。ではあとは頼んだぞ」
「待て!待ってくれ!」
ルザルクは大きな声でそのまま何処かに行こうとしている男を呼び止める。
初めは無視していたが何度も呼ぶとルザルクの方を向いた。
「……なんだ?」
「名前を……。名前を教えてくれないか」
「名前か…。俺の名はシンヴォレオ。【契約の魔人】と呼ばれた者だ」
男、シンヴォレオはそう言い残し、その場を去った。
ルザルクは城を落とされた恐怖で溢れている民を安心させるため、まだ痛む身体にムチを打ち無理矢理立ち上がる。
その横にはプリグラスもおり、二人でともにリグネスに戻っていった。
★
リグネスに戻ったルザルクは初めてシンヴォレオという男の力を目の当たりにした。
この街を象徴する大きな城が上下に分けられ、陥落しているのだ。
象徴が崩れたことで住民は皆パニックになり、このままでは取り返しのつかないことになると考え、すぐに騎士たちに自体の収束に当たるよう命じた。
ルザルクも怪我をしている身体にムチを打ち、自体の収束に当たっている中であることに気付いた。
街は何処も壊れていないのだ。
シンヴォレオは城しか壊していないのだ。
「寛大な御方だ……」
ルザルクはそれを見て感動していた。
すべてを壊すのではなく、必要なものだけを壊す。
それは自分が力を完全にコントロールいる証拠であり、無駄な殺生はしたくないという現れだと感じていた。
「俺もやるべきことをしなければ」
ルザルクはもう一度気持ちを改め、いち早い復興を目指して気合を入れた。
ルザルクはその後、リグネスの主となった。
★
「ルル。俺たちの直近の問題は食料だ。何処か村の場所はわかるか?」
シンヴォレオを墜とした俺は一度眠っていた場所のある森に帰ってきていた。
理由は追っ手から逃れるため。
人に追跡されていないのは確認していたが、魔法の追跡は確認できていない。
なので魔力場が乱れているため魔法の行使が困難な森に帰り、魔法の追跡から確実に逃れようとしている。
魔法による盗聴等も心配する必要がないため、今ここで次の予定を立てているのだ。
「知らない。あそこでずっと捕まってたから」
「それもそうか。お前は疲れただろうからここで休め。俺は村を探してくる」
そう言って村を探すために出ていこうとしたが、ルルに腕を掴まれた。
「どうした?」
聞いてもルルは何も答えず、ただ震えているだけ。
どうやらまた一人になるのは怖いようだ。
「……村探しは明日にしよう。今日はもう寝るぞ」
俺はルルを一人にはせず、ともに夜を過ごした。
俺は魔人であるため、ほとんど睡眠必要としない。
そのため朝早くに起床し、朝食の準備のため森で獣を捕まえ、食べれる野草を集めていた。
「起きたか。もうすぐ朝食ができるから待っておけ」
ルルが目を覚ますとシンヴォレオが一人で野と肉の具沢山のシチュー食事を作っていた。
周りには下処理された魔獣の死骸があり、ルルが寝ている間に狩りをしていたことがわかる。
ルルは渡されたシチューを感謝の言葉を伝えてから飲む。
そのシチューは温かく、優しい味がし、ルルの身体のことを思って作られたことが感じられた。
「飯を食べ終わったら村を探して地図を手に入れる」
「……わかった」
ルルとはまだ少し間があるようだった。
★
食事を終えた俺は念の為に自分たちがいた痕跡を消した後、村を探し始めた。
そして村を探し始めて約3時間。
ようやく村を見つけた。
「畑には…人もいるな」
村を見つけ、遠目からそこが廃村でないことを確認してからその村に立ち寄った。
「すみません。旅の者なのですが……」
畑仕事をしていた三人組の男たちに声をかけた。
「旅人?こんな時期に珍しいな。どうしたんだ」
「昨日の雨のときに間違えてあの森林に入ってしまって、コンパスがいかれてしまって」
俺はあらかじめ作っておいた方位を示すことができないコンパスを見せる。
「それで方角を知るために人を探していたらこの村を見つけて」
「あの大森林に入ったのか。良く無事だったな」
男は危険領域である大森林から子供を連れて出てきたことに驚いているようだ。
「そういうことなら俺たちじゃ力になれん。村長を紹介するから村長に聞いてくれ」
「わかった。世話になる」
「いいって。困ったときは助け合いだ」
俺は案内についていき、村長の家についた。
「少し待っててくれ」
男はそう言って家に入っていった。
数分後、その家から男が出てきた。
「入っていいぞ」
招かれたので玄関に入るとそこには瓜二つの男たちがいた。
「双子でしたか」
「ああ。そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はグルスト。そしてこっちが……」
「その村の村長をしていますグラストです。どうぞ上がってください」
家主に入る許可をもらった二人は部屋に入っていった。
そして部屋に入ったとき、部屋中に結界が張られていることに気付いた。
「コンパスが駄目になったんですよね。共鳴はできるのですか?」
「ええ。できますので心配はいらないですよ」
共鳴とは片方のコンパスの情報をもう片方に移すことをいう。
その作業は特殊なもので、地図屋くらいしかその技術を知らないのだが、俺はその技術を学ばせてもらったことがある。
「なら大丈夫ですね。これが北を指すコンパスです」
グラストは共鳴ができるとわかると部屋の店からコンパスを一つ持ってきた。
「ありがとうございます。では少し借ります」
渡されたコンパスを手に取り、共鳴の作業に入る。
作業開始から1時間ほど経ち、ようやく作業が終わった。
集中していたため気付かなかったがルルが後ろでいつの間にか眠りについていた。
どうやら長時間森を歩いて疲れていたようだ。
俺はそのまま寝かせたまま部屋を出て、グラストにコンパスを返しに行く。
「これ、ありがとうございました」
「もう終わったのですか?お疲れ様です」
共鳴の作業は平均3時間ほどかかる作業だ。
そのため1時間で共鳴の作業が終わったことにグラストは驚いていた。
「お世話になりました。私たちはもう少しすればここを出発します」
「シンヴォレオさん。迷惑ではないので、疲れているのなら泊まっていってもいいんですよ」
その言葉を聞いてルルのことを考えた。
俺はいくら野宿しようが劣悪な環境にいようが大丈夫だ。
だがルルはつい先日まで奴隷として辛い生活をし、そこから逃亡してからも野宿をしている。
ここにはベットもあり、環境は十分に整っている。
「……ではひと晩だけ。ありがとうございます」
「いえいえ」
俺はその提案に甘えることにした。
★
「今日は随分と豪華だな」
「お客様がいるので頑張りました」
グラストいわく、今日の食事は俺たちがいるため豪華になっているようだ。
俺の作ったものとは違い、この村で採れた野菜と近くの森に住む獣で作られたものだった。
栄養も俺の作ったものよりあるはずだ。
「今日はお世話になりました」
「大丈夫ですよ。困ったときは助けないです」
グラストの奥さん、名はリーシャと話しているときも横に座ったルルは美味しそうに頬を膨らませながら食事をしていた。
奴隷だった期間はまともな食事を取れていなかったためか、よく食べる。
ただ気になるのは食べ方が少し汚いことだ。
誰かに取られることを気にしてか皿一杯に食べ物を盛り、勢いよく食べている。
そのため服や口元が汚れているのだ。
「ルル。誰も知らない取らないからゆっくり食べない」
俺はルルの服の汚れは魔法で綺麗にし、口元は手で拭きながら言う。
「わかった」
ルルは言われてからは服を汚すようなことはなくなった。
夜が更け、ルルが眠りについたころ、家主のグラストが俺の部屋にやってきた。
「どうしました?」
「疲れているときに悪いんですが少しお話がしたくて」
「いいですよ。ここでしますか?」
「いえ、ついてきてください」
「わかりました」
俺はグラストに言われた通りしっかりとついて行った。
案内されたのは家の地下、そこは頑丈な鉱石で作られた扉と壁の部屋だ。
印象は誰かを閉じ込めるための部屋、監獄のように感じた。
そしてそこには部屋に合わない木製の椅子と机があった。
グラストが先にはその椅子に座り、続けて俺も座る。
「で、話とは何でしょう?」
「単刀直入に聞きます。貴方は魔族ですか?」
俺は部屋に入ったときの結界が自分に反応していることに気づいていた。
そのためこの質問はいつかされるものだとわかっていた。
「部分的にそうですね。半分魔族なので」
「半分……。もしかして混在種なんですか?」
「混在種というのは初めて聞きましたが、多分それですね。私は半人半魔、自分では魔人と呼んでいます」
「魔人ですか。……確か神話の時代に活躍した者たちもいたと聞いたことがあります」
「神話の時代?聞いたことが無いですね」
「神話の時代を知らない?まあ、そのような特殊な生まれなら仕方が無いのかもしれません」
グラストは神話の時代と呼ばれる時代の説明をしてくれた。
それは数千年前、あらゆる種族が自分たちの種族の生存をかけて世界中で戦争をしていた時代。
今はお伽噺として子供に話させることが多いようだ。
そしてその話に出てきた魔人はどうやら俺自身のようだった。
「その魔人の名前は伝わっていませんが、エルフの間には伝わっているようですよ。まあ、それもあくまで噂なんですがね」
エルフに伝わっているということはあの小娘が関係している。
会いに行かなくてはと思った。
「そうなんですか。魔人にもそんな人がいたとは」
「みたいです。それで貴方は私達に害をなすつもりはないんですね」
「ええ。それよりもこの部屋は魔族と思われる者がいたときに処刑するための部屋なんですか?」
「はい。そのために作られた部屋のようです。と言っても昔に村が魔族に襲撃されたときに作ってから一度も使われてないようです」
こんな魔法結界すら張られていない鉱石の扉だけの地下室ではどれほど弱い魔族でも容易に出ることができる。
そこで俺は世話になったお礼としてグラストに提案をする。
「こんな部屋では魔族の監禁はできません。よければ私が結界を張りましょうか?」
「結界を!?出来るならお願いしたいのですが、維持できる者がこの村にはいませんので大丈夫です」
「結界の管理は大丈夫ですよ。その代わりに一つだけ約束をしてほしいのです」
「約束?私ができることならいいですよ」
「では一つ。結界を張った者を誰かに聞かれたとしても、私ということは教えないでください」
「それくらいなら約束しましょう」
「では契約成立ということで」
俺は地面に手をあて、魔法を発動させる。
1つ目は魔族を排斥する結界。
その結界は村全体を覆う大きさであり、同時に今いる部屋に魔族をテレポートさせる。
2つ目はこの家に張る結界。
害意を持つ者がこの家に侵入しようとしたとき、その者に自動的に反撃する結界だ。
3つ目はこの部屋に魔素を浄化させる結界。
魔族はどんな者でも体内の魔素をすべて消滅させれば死ぬ。
つまりこの部屋に魔族が入れば遅かれ早かれ自動的に死ぬ。
そしてその結界は人間に悪影響はないため、この部屋に人が入っても問題ない。
4つ目はこの部屋の強度をあげるための結界。
どれだけ対魔族に特化していようとも、部屋から出られれば問題ない。
そのためこの部屋はどんな攻撃であろうとその攻撃を反射する結界を張った。
これがあることで人間でも部屋に監禁する方が可能となる。
「終わりました」
結界を生成し終わると同時に地面から手を離した。
俺は今張った結界について簡易的に説明をした。
魔族を簡単に殺せるということと、人間も監禁できるということを教えて。
その後は上のリビングに戻り、ルルの話を少ししてから就寝した。
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