第2話 奴隷解放
ルザルクが騎士たちに呼ばれ、城壁に来たときには既にここの警備をしていた第四部隊は壊滅していた。
あたりには血が飛び散っているが、そこに立っている1人の男は怪我の1つもなく、返り血だけで服を真っ赤に汚している。
落ちていた首は第四部隊隊長のもので、その実力は一から八まである部隊の中の隊長では二番目に強い実力者だ。
その男でも目の前にいるものは止められなかったようだ。
そのまま立って動かない男を見たルザルクはなにか要求があるのだと思い、聞こうとしたが先に相手が言ってきた。
「ここにいる奴隷を全員解放しろ。さもなくば殺す」
★
「……それはできない要求だ」
目の前の騎士はそう言う。
「できないか。死にたくなければさっさと要求をのむといい」
「私ではできないということだ。あくまでも私はここの騎士たちをまとめる団長に過ぎん。そういうことは私ではなく、ここを統治しているものに言うといい。その者はここから見えるあの城の頂上にいる」
「ふむ、そういうことか」
俺は目にも留まらぬ速度で移動し、その騎士の胸ぐらを掴み上げる。
その目には絶望ではなく、希望に満ちた目をしている。
「俺を利用しようとはいい度胸だな」
一言警告しておき、下ろしたと同時に一発腹を殴っておく。
その拳は鎧を破壊して騎士を壁まで吹き飛ばし、飛んだ騎士は壁にめり込んでいる。
死なない程度で殴っておいたのでまだ息はある。
「ルル、行くぞ」
「うん」
呼ぶと隠れていたルルが出てきて横に立つ。
俺は手を繋いで城に向かっていった。
★
「がはっ、……ゲホゲホ」
「ルザルク!大丈夫か!」
「ああ。何とか大丈夫だ」
血を吐きながら四つん這いになっているルザルクにすぐ寄ってきたのは一緒についてきた第一部隊隊長、プリグラス。
ルザルクの親友で、奴隷制を撤廃したいという同じ想いを持つ者だ。
(なんという力……。ミスリルとアダマンタイトの合金で作られた鎧を拳一つで砕いた)
(そしてあの者はまだ本気を出していない)
殴られた感触、そして殺気の無さからルザルクはその事実に気付いた。
だがその力を前にして安心していた。
あの実力ならば何があろうとも必ずここにいる奴隷たちを解放できるはずだと。
「プリグラス。俺たちの夢が叶うぞ」
「そうだな。あの者が助けてくれた」
ルザルクとプリグラスは2人で空を見上げていた。
★
「ここが統治者のいる城か……」
その城を見た俺は呆れていた。
遠目では気づかなかったが城の各場所に金を塗って作られた旗や銅像が金で作られていたりと無駄に豪華な装飾がつけられており、ここの統治者の無能さが露呈している。
その金を経済に回せば今のような貧しくて暗い雰囲気の街ではなく、もっと明るい街になっていたはずだ。
俺はそれを見た途端、平和的に交渉をするとすら馬鹿らしくなったため、派手に行くことにした。
「貴様!ここが誰の城がわかっているのか」
城門の前で立っているとそこにいた騎士2人がこちらに向かってくる。
魔力の込めた腕を軽く振るうと2人の頭がなくなり、首から噴水のように血を噴きながら倒れていく。
それを見た住民たちはパニックになり、叫びながら辺りに散らばっていく。
俺は先程よりも魔力を腕に込め、それを振るう。
すると城が斜めに切られ、大きな音を鳴らしながら上部が滑り落ちていき、やがて地面に落下すると辺りに大量の土煙を発生させた。
「さて。死んだか?」
俺は領主の死体を確認するために崩れ落ちた瓦礫の中に足を運んだ。
★
突如現れた膨大な魔力とその矛先が城に向かっていることを感知したブュエルの護衛は判断は早かった。
攻撃が放たれるまで幾ばくの猶予もないことに気付いた護衛は敵のいる方向とは反対側にブュエルを投げたのだ。
「クソっ、無礼者め。後で死刑にしてやる」
そんなことの知らず、自分のことを殺そうとしたのだと思っているブュエルは体を起こしながら文句を言っていた。
そしてその眼前に現れたのは信じられない光景だった。
神が世界を切り分けたのか如く城はきれいに上下に別れ、今まさに上部が大きな音を鳴らしながら滑り落ちているのだ。
「……は?????」
それを見ているブュエルは状況がわからず、言葉を失っている。
そうしているうちに城の上部は滑り落ち、大量の土煙を巻き起こした。
そしてその土煙が収まり、少しずつ視界が晴れていくと、血に濡れた1人の男が瓦礫の上に立っていた。
★
「ふむ。思っていたよりも視界が悪いな」
城が落ちたことで立ち込めた土煙の中にいる俺はそう呟く。
だがその中で動いている者が3名いることは把握している。
そしてその者たちが今、俺を殺そうとしていることも。
敵はまだバレていないと思っているのか一向に仕掛けてこない。
なので俺から仕掛けることにした。
一番遠くにいた者の背後に移動し、首をへし折る。
その者はキュウッ、と情けない音を鳴らしながら絶命した。
次に近くにいた者の顔面を掴み、地面に叩きつける。
そしてその者を最後の1人に投げつけた。
男は飛んできた者を反射的に掴み取り、その身体が重なった時に二人の身体に腕を貫通させた。
二人とも血を吐いて地面に倒れ、服には大量の返り血が付いていた。
わずか5秒でその者たちを殺した。
そして俺は崩れた城の瓦礫の上から領主の死体探しを再開した。
死体探しを再開して少し経つとようやく土煙が収まってきた。
それによって視界が開け、一人の男を見つけた。
「貴様。この城の主を知らぬか」
「き、貴様。何者だ!」
「質問を質問で返すな。死にたいのか?」
「し、知らぬ。私はただの使用人だ。主は逃げたのだろう」
【契約の魔人】である俺にとっては嘘というものは契約を行う上で大変厄介なものである。
そのため俺は嘘を嘘を見抜く能力を身に着けており、俺の前で嘘をつくことはできない。
そして目の前の男はその能力に引っかかったのだ。
「ほお、嘘は良くないな」
俺は地面に座っている男の前に立ち、見下ろしながら言う。
「次はない」
「し、知らぬ!!」
「そこまで突き通すか。ならばゲームをしよう。貴様が本当のことを言えば殺さないでやる。嘘をつけばここで死ぬことになる。どうだ、阿呆でもわかる簡単なルールだろう」
「し、知ら……」
嘘をついた男の首を切り落とし、その転がっていった頭を拾う。
そしてその頭を近くにいた騎士に投げるつける。
「ひいぃぃぃぃぃぃ、りょ、領主様!」
その騎士は掴んだ者の顔を見てそう言った。
そしてそのまま頭を落とし、走って何処かに行ってしまった。
俺はその落ちた頭を拾い上げ、それを見ながら言う。
「やはりこいつが領主か」
この男が領主ということにはわかってはいた。
城門前で殴り飛ばした男と同格、もしくはそれ以上の戦士3人に護られており、自分のとこは使用人だと言いながら使用人らしからぬ言葉遣いに服装。
それらのことにより、この男が領主ということはわかっていたが、影武者の可能性があるため確認を行うために先程は質問をしていたのだ。
「ルル。こいつがお前のことを苦しめていた奴だ」
俺はその領主の生首をルルに見せた。
ルルはその顔を見て少し嬉しそうにしている。
それも仕方ないだろう。
何年も自分のことを奴隷として扱ってきた者が目の前で死んでいるのだ。
誰でもうれしいだろう。
「これで俺の力は信じれそうか?」
「うん。ありがとう」
初めてあったときからルルが俺の力について疑問に思っていたことは知っていた。
だがこうして実力を証明したことでルルとの間に信頼関係が生まれる。
それは嬉しいことだ。
「ルル。城門に戻るぞ」
「わかった」
ルルはすぐに横に来て一緒に城門まで歩いていった。
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