水道

水道管には人間が流れている。


「今立っている地面、いや床かもしれない。の下には幾重もの管が走っている。

その中を窮屈に犇めきあっている。みんな同じ顔である。

時たまトイレに札束を投げ込むやつがいて、すると足元から放射上にざわめきが伝播して、床板が躍りだす。管には二種類があって、左と右だ。

左は水族館に繋がっている。水族館には人間以外にもクジラや、雲や、ミミズが泳いでいて、みんな仲良し。右は職場に繋がっている。特段説明は要らないだろう。」

「毎日毎日毎日毎日、左ばかり混雑している。おかげで誰も道路の左側を通ろうとはしない。人間は排泄も射精も毎日するせいで、臭いんだよね。近寄りたくもない。

右は空っぽだ。物好きばかりが並んでいる。彼らは、職場を求めているよりかは水道管が好きなんだろう。度々壁についたコケやカビをこそぎ取ってぺろぺろとなめだす。気持ち悪いかい?でも結構見てて楽しいんだ。彼らはいろんな奴がいる。

デブだったり、ガリだったり、ハゲだったり、たまにスーツを着てたりする。

大抵は、洒落てるって言うんだっけ?キラキラして光をそこらじゅうにぶちまけるような服を着てるんだよ。それがキモくてキモくて。でも、左に向かうみんな同じ顔をしたチビよりはまだ見ていられる。あいつらみんなびっくりするほど似たような見た目でさ。言葉もろくにしゃべれない癖に喚き散らして、本当にうるさい。排泄物を平気で踏み鳴らすくらい常識を逸脱しているのに全員同じ衝動に走るから、どうしようもない。今は奴らの方が多数派だから、そっちが普通なんだろうけども。」

「いや、俺は彼らの方が好まれる。彼らは非常に操りやすい。すべての行動が単調で本人たちはすごいと思っているのだろうが、大したことも出来ない。全ての行動が曖昧で無軌道で予測不能なのに、全員が歩調を合わせてそれをおこなうから、最早整然とした正しい行動のように思える。滑稽すぎて、笑えてくる。それだけじゃない、奴らくじらをミミズでぺちぺちと叩くんだよ。対抗できているつもりなんだろうか。一度クジラが身体を一捻りうねってやれば彼らは塵のように飛んでいく。そしてまた行進を再開するのだ。彼らの行進は非常に興味深い。同じ行動をひたすら続けるのかと思えば途端に崩れだす。崩れたように見えてよく見てみれば全く同じ動きで崩壊していくんだよ。原理だとかは考える気にはならないが、あれが人間ってやつなんだろう。滑稽で醜悪、浅慮で怠惰。その癖周りに合わせることばかり得意な連中だ。」

「まあ両方退屈しないってことさ。」


さて、お前はどっちを選ぶ?


「うわーどうしよっかな。でも仕事はいやだから、左にいこっかな。」


「やっぱり左かよ。おもんねえ。しかも理由も一言一句変わんないんだぜ。どんだけ仕事嫌いなんだよ。」

「今回も俺の勝ちだな、ジュース奢れよ。」

「わあったよ」

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