陽光
終電に乗っていた、はずだ。
記憶がぼやけてよく見えないが、電車で爆睡を決め込んだような気がする。
ここは終点。さびれているわけでもないが、東京のような眩しさもない。
青白い光を放つ街灯と、真っ黒に染まった街路樹が夜の隙間を縫って点々と広がっている。度々木の葉が鳴らすゴウゴウとした音が、逆に静寂を際立てる。見上げると、灰色と紺色が混ざったような色の空。遠くの都会の光が漏れ出し、空を鈍い明るさで包む。そいつは常夜灯のように光を留め、薄汚れた模様を見せつけてくる。主役であったはずの星の光は脇に追いやられてしまって沈黙する。
見下ろすと、住宅街がひたすら広がっている。でも、そこに人が住んでいるようには思えなかった。不気味に均一な建物が永遠と続いていて、光もほとんど見えない。やっぱり見えるのは、街灯のLEDだけ。家屋の集団の脇にはやけに広い川が佇んでいて、その静けさと対照的な橋のうるさいライトがてらてらしている。ただ、車がただの一台も走ってはいない。
自分の町と大して変わらない景色なのに、知らない場所というだけでこんなにあたたかみが感じらないものだろうか。夜風がびっくりするほど冷たい。服の細かな隙間から侵入して肌全体を冷気で包んでくる。その冷気がよそ者は出ていけと囁いているような気がした。
振り返ると、視界の端に眩い光が見えた。
私は吸い込まれるように光のもとへ身を投げた。
そこは、風俗街だった。
手元には五万円があった。
私は、瞬く間にそれを使い果たした。
文字通り、瞬きする間もなかった。
気が付けば空しい財布と、じんじん痛む股間だけが残った。
呆然とする。鈍い暗さを放っていた空が、突然色めき立つ。
夜が明けようとしていた。
遠くからやってくるその温かく朗らかな光が、私を冷徹で陰鬱な現実へと引き戻そうとする。
いやだ、いやだ、そんなのは嫌だ。
陽の光に母親の面影を感じる。
懐かしい、あのあったかい記憶。
でも、冷え切った彼の体には熱すぎた。
光が彼の肌をつーんと差し、痺れるような痛みが全身を覆う。
熱い!熱い!熱い!熱い!
訳も分からずに走る、走る、走る。
気が付けば目の前には河が流れている。
造作もなかった。
彼の身体は、若々しい水泳選手のように綺麗な弧を描いた。
とぷん
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