最終回

さらに、このトリックを暴くうえで、私は犯人のミスを利用していました。犯人は、ドアを開けることで、「四階にいる」というアリバイ工作をしようとしたのでしょう。これは、シンプルな犯人のミスです。ミスというよりも、油断という表現のほうが適切かもしれません。私が部屋の外にいたということを想定していなかったのでしょう。


犯人は、椅子に縛られていためいさんを、階段まで出しました。そして、階段を完全に遮断された空間にするために、犯人は緊急ベルを鳴らしました。


この緊急ベル、とんでもないものなのです。なぜなら、これを鳴らすだけで、シャッターが下りてくるせいで階段に入ることはできなくなるからです。そのため、緊急ベルを鳴らしてしまえば、犯行を見られるリスクを軽減しつつ、確実に殺せるのです。


そして、実質的な密室となった階段で、犯人は椅子ごとめいさんを突き飛ばしました。ただでさえ体重が軽かった彼女は、他の人よりもこの殺し方が容易だったのでしょう。そして、階段の踊り場に衝突し、死んでしまったのです。


しかも、ターゲットをおびき寄せる方法も簡単なものです。研究所で作られたという人造人間の噂、これを流す。ただそれだけです。こうすれば、ターゲットであるオカルト研究会に接触することができます。


これらの犯人を行う条件がいくつかあります。もとからこの研究所の構造を知っていて、緊急ベルの仕組みも知っていた人物。証拠隠滅のために悪天候に調整できる人物。ターゲットと関係があった人物。そして、これらの条件に最も近いであろう人物___


一織「___フランさん、あなたが犯人だってことは推理できてしまったんですよ」


フラン「………」


一織「どうなんですか、フランさん。違うなら違うって、そう言ってください」


完全に犯行を暴かれてしまったフランさん。そんな彼女の返答は…


フラン「………っ、…うっ…」


一織「え?フランさん?」


フラン「うぅっ………」


彼女はその場に座り込んで、泣き出してしまいました。しばらくして、 なんとか嗚咽を必死に堪えて、口を開きました。


フラン「そうだよ…。殺人鬼『人造人間』の正体はアタシ…。アタシが、この手で殺したのよ…」


カンナ「嘘でしょ…?嘘だよね?こんなの、何かの間違いだよね!?」


フラン「嘘なんかじゃない…本当にアタシがやったの。あの心まで腐りきった大罪人を、この手で殺したのよ…!」


カンナ「そんな…どうして?どうしてそんなことをする必要があったの?」


フランさんに対して、カンナさんは優しい口調で問い詰めていきました。


フラン「悪いのは、あいつらよ……!あいつらが、アタシが大好きだったパパも、パパが大好きだったこの研究所も、全部をめちゃくちゃにしたのが悪いのよ……!」


一織「めちゃくちゃにされた…?」


フラン「そこまで言うなら着いてくる?あんなものを見て、復讐しようと思って何が変なの?」


あんなもの、 とは何なのか分かりませんでしたが、彼女が復讐の心を燃やすほどには酷いものだと思いました。実際に見たものは、そんな言葉ではまとめられない、とてつもない外道な気持ちが溢れていました。


私たちが向かったのは、二階の資料室にあった、開かずの扉です。開けようにも開けられないので放置していましたが、フランさんが持っていた鍵で、あっさりと開くようになりました。どうせなら、開かないままでも良かったかもしれません。


その扉の先に広がっていたのは、緑の葉っぱが生い茂っている、謎の空間でした。興味本位で近づこうとしたのですが…


フラン「それ以上近づいたらダメ!!」


と、フランさんに止められてしまいました。私も、意味を理解してしまいました。


一織「もしかして、そこに生えているのって、薬物の類なんじゃ…」


フラン「そうよ。もともと、この部屋はパパの部屋だったの。それを、あいつらは…!」


竜二「なんて奴らだ。そんなカスどもなら死んで良かったかもな」


葉月「おい、竜二。そんなことを言うな。そこにまだ涼先輩いるんだぞ」


涼「いや、構わない。僕も同じようなことを考えていたところだから」


そして、涼さんはフランさんのそばに行き、こう言いました。


涼「何か、贖罪として、僕にできることはないか?」


フラン「いや、そんなものはいりません。あなたには、もう何も求めていないので」


そう言った彼女は、また涙を流し始めました。


フラン「ねぇ…!どうしてなの?どうしてアタシの周りから大事な人はどんどん居なくなっていくの?パパ…めいちゃん…」


そして、大声をあげて泣きました。まるで、子どものように。


そんなに彼女に私は駆け寄っていました。なぜだかは分かりませんが、優しい言葉の一つでもかけたいとかいう、聖人ぶった考えでもあったんでしょう。


一織「フランさん。そんな泣かないでもいいんですよ。あなたが大切だと思ったその人は、あなたの心の中に生き続けているんですよ。あなたは一人ぼっちなんかじゃないです。だから、笑ってください。あなたは、きっと、笑顔がとても似合う方ですから」


フランさんは、泣きながら、無理やり笑顔を作っていました。でも、その表情には、「人造人間」の面影はなくなっていて、一人の「少女」のものになっていました。


すっかり晴れた空の下で、私たちは、フラン研究所を後にしました。彼女も、研究所を出て、今回のことで自首をしました。


私にとっての『腐乱研究所殺人事件』は、こうして幕を下ろしました。


(腐乱研究所殺人事件 終)

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断罪の探偵 3 腐乱研究所殺人事件 柊 睡蓮 @Hiragi-suiren

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