第7話

倉庫はだいたい調べられたので、二階に上がって、資料室に行くことにしました。資料室といっても、肝心の資料類は破られ燃やされ濡らされと色々されて、あまり読めないものも多くありました。それこそ、何か隠ぺいしたいことでもあるかのように。


まともに読むことができるものもいくつかあったので、読んでみることにしました。簡単にまとめると、この研究所は、もともと薬についての研究をしていたのです。人造人間の噂を信じる人が少なからずいたのは、こういった要因もからんでいそうです。


その噂ができるきっかけと思われるようなことが、他の資料に書かれていました。読んでいて、変だなと思った方はいませんか?どうして、片道三時間ほどもかかるような山道に研究所が立地しているのか。どうして、建物を取り囲む柵に電流が流れているのか。


私が読んだ資料の内容としては、立地は研究内容が世間一般に広まらないために、電流は、研究結果を盗もうとする人の対策のためだそうです。真っ当なようにも聞こえますし、マッドなようにも聞こえます。噂ができたのも仕方ないのかもと、私は思いました。


そして、こんなものが落ちていました。極秘と書かれた封筒です。極秘っていわれると、どうしても気になっちゃいますよねぇ〜。ということで、ついつい開けてしまいました。だって、極秘だなんて言われたら、好奇心掻き立てられるじゃないですか。


しかし、それは本当に見ていいものだったのか?事件の解決には欠かせない「証拠」であっても、その行き着く先が「知るべきではなかった真相」だとわかっていたら、本当に見たのか?


そんなことを、自分に、責めるように問いかけました。事件を解いている間にそんなことを考えていられるはずがなかったのですが。


その封筒に入っていたもの、それは、例の人造人間にまつわる資料でした。随分と情報が多く、作った人がどれだけ生真面目な人だったのかと考えさせられます。


しかし、この資料、一つだけ、はっきりとした違和感を覚えさせます。内容ではありません。人造人間は都市伝説のようなものなので、正直違和感なんてものはなかったです。


では、私は何に違和感を覚えたのでしょうか?その答えは、資料がほとんど手付かずの、綺麗なものだったことです。さらに言えば、封筒も、雑に置いてあったとは思えないほど綺麗でした。ホコリもそんなについていませんでした。


資料の中身について、人造人間の開発実験を行った結果が書かれていました。このとき使われたのは、当時五十四歳のホームレスの遺体。実際に行われた実験では、この遺体について、様々な薬を投与していき、その肉体を強化していくことが目的となっていました。


このときに、一人の研究者が、こっそり麻薬を投与したそうです。その結果は破棄されてしまっていて(もしくは最初から書かれていなかったので)分からなかったですが、資料の最後から、研究所がどのようになったかは、書かれていた文章から、その様子が想像が出来てしまいました。


一人の研究者が、麻薬による禁断症状を起こしました。それによって、次第にその人は錯乱をしていき、最終的には研究所にいた全ての人を残酷に殺してしまいました。これが、四ヶ月前の出来事だそうです。


つまり、フラン研究所において、殺人事件が起こったのは、今回が初めてではないのです。どこからどこまでが類似した事件なのかは分からないですが。


そういえば、フランさんがうちの事務所に来たとき、こんなことを言っていたと思い出しました。「パパが半年前に病気で死んじゃって…」と。もしかすると、フランさんのお父さんが亡くなったことが引き金となって、人造人間の開発実験がされたのでしょうか?


資料室を探してみても、資料なんてほとんど残っていなかったので、あまり得られませんでした。この研究所では、過去の因縁が無数に蔓延っているような感じがします。そのことについて、純さんと話をしました。


一織「純さんは、この資料を読んで、何か感じたことはありますか?」


純「そうだな………ん?この資料、いつ書かれた資料だったっけ?」


一織「えっと…四ヶ月前らしいですけど」


純「四ヶ月前?本当か?」


一織「はい。ほら、ここの日付がそれぐらいの時期なので…」


純「だったら少しおかしくないか?四ヶ月前に事件があったのに、ここまでボロボロにはならなくないか?」


一織「それはどうなんでしょう。惨劇の後だと考えると、まだ現実的なことだと思いますが…」


純「それにだ。この資料を作ったやつは、わざわざこんなものを作る必要があったのか?しかも、ここで作るにはリスクが高すぎる状況のはずだ」


一織「確かに…もしかすると、ここから離れたところで資料を作ったのでしょうか」


純「そうするのが安全ではあるが、そうしたところで、今度はわざわざ研究所に置きに戻る必要はないだろう」


一織「つまり?」


純「つまり、犯人は人造人間の開発実験に、程度はどうであれ絡んでいる人物ということになる。あるいは、そもそも開発実験が嘘っていう線もあるだろう」


こういう積極的に推理してくれる人、頼りになりますね。探偵の仕事は減ってしまうので、そういう点では困りますが。

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