第11話 勝者の要請
その日の夕食を、アルフィムとファーミルは宮殿の食堂でとっていた。
ツィアはフンデコミュニティの医療施設に運ばれ、その指揮をとるシルヴィア・ファーロットにシルフィとエマーレイもついていった。
仕方ないとはいえ、仲間を3人も取られたような扱いになり、アルフィムは不機嫌な様子でパンを食べている。
「失礼するよ」
声をかけられ、アルフィムはムッとした視線を向けるが……。
「あ、ルーリー王子」
食事の盆を持ってきたのがルーリー・ベルフェイルであるため、トーンダウンした。
ルーリーと、諜報部長のメミルス・クロアラントが近くの席につく。
「貴女のおかげでステル・セルアを早期陥落させることができました。誠にありがとうございます」
そう言って、2人が頭を下げる。
「つきましては、何かしら恩賞を授けたいと思いますが」
「いえ、私がルーリー殿下の勝利を望んで来たわけですし……」
特別お礼を言われることでもない。
そう思ったが、メミルスが首を振る。
「いえいえ、善意でそう申し出ているとは思いますが、タダで手伝ってもらったとなると、実は私達にとっても非常に困ることです」
アルフィムが礼を受け取らないとなると、アネットは彼女を派遣してきたステレア女王リルシアに借りを作ることになる。
ステレアがルーリーに借りを返せと求める場合は、当然、対ビアニーへの出兵を意味するが。
「それは現実的には面倒な話です。さすがにベルティを寄越せなどと言われると困りますが、ある程度の恩賞を授けて、貸し借り無しの関係にしたいのですね」
「なるほど……」
恩賞を与えないと困ると言われると、何かしら求めるしかない。
しかし、何を求めたものか分からない。
率直に今、一番不満なのはシルヴィアのことであるが、個人的な感情を恩賞として主張するのはさすがに大人げない。それは自分勝手なアルフィムも理解している。
とはいえ、物質的な希望は特にない。ステル・セルアは大きな街ではあるが、ハルメリカにも大抵のものがある。敢えて、ここで欲しいものがあるわけでもない。
(特にない……)
というのが、嘘偽りない感情である。
「明日までに考える、ということでよろしいでしょうか?」
とりあえず先延ばしすることにした。
ルーリーは色々やることもあるらしく、手短に食事をとって「それではお先に失礼します」と去っていった。
食堂にはメミルスが残る。
「アルフィム殿はスイールから来たと伺っていますが」
「えぇ、まぁ……」
「スイールの貴族に、これという未婚の女性はいますか?」
「……はい?」
アルフィムは目を丸くした。
「あ、いえ、ルーリー殿下のお相手として考えているのが、スイールなんですよ」
ベルティは多民族国家であり、ルーリーはその多くの民族が住むアネットを統治している。
となると、どの民族の女性と結婚しても、他の民族の不満を呼ぶ恐れがあるというのだ。
「前王は全部の民族から妻を次々に迎えるという離れ業をしましたが、その結果がこの様ですし、できれば無関係の場所から女性を迎えたいんですよね」
アクルクア大陸から離れているスイールの女性であれば、ベルティのどの民族にとっても無関係であり不公平はなく、申し分ないのだという。
「……これも急ぐ話ではないですが、ステル・セルアを統治したことでそろそろ踏み出したいとも思っております。どなたかいらっしゃったら、明日以降で構いませんので教えてください」
メミルスもそう言って、頭を下げて戻っていった。
再びアルフィムとファーミルの2人になる。
「……そんなものなのかなぁ」
好き嫌いなど全く関係なく、民族間対立を避けたいがために、全く知らない地域から配偶者を求めたいという心情を、アルフィムは理解できない。
「そういうものなのですよ」
「でも、何か寂しくないですか?」
「そうかもしれませんが、それが国王という地位の務めでもあるのですよ。このあたりはラルスも同じですし、おそらくビアニーやスイールもそうでしょうね」
「……そうだとしても、私は探すには不適格ですね。エルリザでは問題児で通っていたので、話し相手の女子がいないですし」
ファーミルは微笑を浮かべる。
「エディス・ミアーノ姫という手もありますよ」
「えぇっ!?」
確かに言われてみれば、そうではある。
「まあ、この人には二つ問題がありますかね」
「ふ、二つ?」
配偶者候補にされるのも困るが、自分に何か問題があると言われるのも気になる。
「実はスイールではなく、オルセナ王女ですので民族的な難点を解決できません」
「あ、そういえば……」
「あと、別に心に決めた人がいそうですしね」
「えっ? そ、そんなことはないですよ!?」
いきなり「好きな人がいる」と言われてびっくりするアルフィムだが、ファーミルは無言のままだ。
「……そういうことは……、ないのではないかと……」
トーンダウンした口調で、再度返答した。
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