第11話 ツィアとジオリス
外に出た3人で最初に口を開いたのはジオリスだ。
「ホヴァルト王」
ジュニスに呼びかける。
「何だい?」
「王以外にもう1人、とんでもない人物がいたというが、その人物は来ていないのか?」
アルフィムのことを尋ねている。
(素性を把握しているのに、全く知らないフリをしているわけか。こいつも演技がうまくなったな)
ツィアは内心で笑いながら、ジュニスの反応を待つ。
「何日か前に、胃が痛くて死にそうだとパーティーを休んでいたから、あまり体調が良くないのかもしれないな」
ジュニスはジュニスですっとぼけているのか、あるいは本当にそう思っているのかよく分からない回答をする。ジオリスは一瞬、口を開いて絶句したが、エディス・ミアーノならありえると考えたのだろう。納得したように頷いた。
「ずっと座っていて疲れたし、ちょっと散歩してきていいか?」
ジュニスがジオリスに尋ね、「構わない」と返答を受けるとそのまま街の散策へと出かけた。
有難い展開だが、あまりに都合が良いので何か企んでいるのではないか、とも思えてくる。
ともあれ、場にはツィアとジオリスだけが残される。
ジオリスはジュニスが歩いた先とは違う方向に歩き出した。ツィアもついていく。
「……一体どういうことなんですか?」
不機嫌そうな声だ。
とはいえ、ビアニーの王子であり、前総司令官である自分が、敵軍側にいるのだから不機嫌になるのは当然だろう。
「その点については弁解の余地がない。全部話すと長くなるんだが、まずはっきりしているのはアルフィム……エディス・ミアーノはガフィン・クルティードレに強い敵意をもっているということだ」
ジオリスが目を丸くした。
「ガフィンというと、兄上の参謀じゃないですか」
「そうなんだが、俺の知らないところでかなり危険なことをやっているらしい」
「危険な事?」
「まあ、死者を生き返らせるとかそういったことだ。ガフィンの部下達はトレディアやオルセナあたりまで出払っていて、サルキア大公子もその連中に毒殺されたようだ」
「サルキアが!?」
これはジオリスも驚いたようである。
「ガフィンはそんなに危険なんですか?」
「あぁ、実際オルセナで死者の再生研究みたいなものをやっていたが、正直、酷いものだった」
「オルセナでやる分には良いですが、何でトレディアに?」
「……死者を蘇らせるという名目で、色々声をかけて資金やら死体やら募っているようだ。ガイツリーンの戦闘が激しくなるとこっちにも来るかもしれん。昨日まで仲間だった戦死者を変な生命体に変える可能性がある……と考えれば深刻さが分かるだろう」
ジオリスは唖然と口を開く。
「……で、ホヴァルトがそうした情報とウォリス兄上やその下にいる連中も交えた情報を悪質に変えてレルーヴやベルティで広め回っているらしい」
「それはつまり、ビアニーはその2国では相当悪い扱いになっているわけですか?」
ジオリスは要点を把握したようで、頭を抱える。
「でも、サルキアが死んだというのが本当なら、エディスだけでなくネミリーやセシエルも敵意を持ちそうですね」
「だな。実際、来ないだけで色々支援はしていたし」
「……あの3人を敵に回すだけで頭が痛い……。しかし、ホヴァルト王と共に行動しているのは何故ですか?」
「……3歳児になったつもりで、アクルクアの地図を眺めると分かる」
そこまで言うと、ジオリスも「あぁ」と頷いた。
「最短距離だとホヴァルト経由が近い。そうなるとホヴァルトにとっては領内侵犯だが、そこであの国王と意気投合したというわけだ。お互い似た者同士だからな」
「で、2万のビアニー軍が蹴散らされたわけですか」
「手紙にも書いたが、あの2人が組み続けるとこの大陸に勝てる国は存在しない。それこそ、ガフィンの変な研究が頼みの綱なんていう笑えない事態になりうる」
「……だから南に向かわせるわけですか」
「そうだ。そちらはジュニスの対策をしっかりやってネーベルの押さえに専念してくれ。ウォリス兄上の権限を割く措置も頼む」
ジオリスは「ウォリス兄上を押さえるのは難しいですよ」とブツブツ言っていて、「あれ」と首を傾げる。
「ですが、兄上はいつの間にエディスとそんな仲良くなっているんですか?」
「仲良くなっているわけではないよ」
「でも、エディスの取り扱いはセシエルやネミリーでも苦労していましたよ? それを南の方に連れていくなんて、簡単に書けるあたり、怪しいような……」
明らかに怪しむような視線を向けてくる。
「怪しいといえば、ここにエディスが来ていないのも怪しいですね」
「ここにいないのは、ビアニーに敵対したから、おまえと顔を会わせづらいからだよ」
「……セシル姫がいるのに」
「いや、ちょっと待て。それは本当に誤解だ」
またまたおかしな方向に進んできていると思いながら、弁明のルートを必死に考えていた。
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