第12話 ツィアとジオリス・2
ジオリスは「それはまあ、エディスは間違いなく美人ですけどね」と嫌味を言っている。
ここまで言われると仕方がない。
「……彼女は、オルセナの人間である可能性がある」
そう口にすると、ジオリスが目を見開いた。
「オルセナの人間というのはどういうことですか?」
「現在の国王ローレンスには子供が2人いた。一人はブレイアンで、こいつについては俺がその死を確認した」
「手紙にありましたね」
「もう1人、エフィーリアという娘がいた。出生直後に病死したと言われているが、どうも生きていたらしいという話が広まっている」
「……それがエディスである、と?」
ジオリスの目つきが途端に険しくなった。
「確定したわけではない。ただ、8、9割そうじゃないかと考えている。確定したならば」
「当然、生かしておくわけにはいかないですね」
「……確定したら、な」
「どうやって見極めるんですか?」
「もう一度セシリームに行く必要があるだろう、な。何度も言うが、彼女とホヴァルト王の歩調を共にさせるわけにはいかないから、一旦ベルティに行く。その後は、もう一度、オルセナに行って調査するつもりだ」
ジオリスの表情に不穏なものが浮かんでいる。
故に、ツィアはもう一度言う。
「しっかり調べてみるだけだ。オルセナは伝統と歴史しか取り柄がないから、そういうものはしっかりと残しているはずだから、な」
ジオリスは先ほどまでと違う様子で首を傾げた。
「エディスがオルセナ王家に繋がりがあるとすれば、非常に厄介です。兄上がどこまでご存じかは知りませんが、セシエル・ティシェッティやネミリー・ルーティスとの繋がりは非常に強いですし、エリアーヌもエディスとは仲が良いですし……」
「魔術学院での人間関係が多いのは厄介だな」
もちろん、ツィア自身も分かっていることではあるが、初めて知った様子を見せて顎に手をあてる。
「……オルセナで調べる前に、隙があれば殺してしまった方が良いのかもしれません」
「いや、ただ、確定していないわけだし」
「そうかもしれませんが、エディスを殺すのは簡単なことではないと思います。十中八九そうであると分かったなら、隙がある時にさっさと仕留めた方が良いでしょう。何なら人違いであった場合は、俺が責任を取ります」
「さすがにそれはまずいだろう。友人連中はどの道許さないと思うが、素性違いだとしたらどうしようもなくなる」
例えばレルーヴ領内なら、セローフとハルメリカの間にはライバル関係があるし、どうやらセローフはガフィンの一味ともつながっているらしい。
アルフィムが本当にオルセナ王女であれば、セローフがハルメリカの動きを制約するだろうし、あるいはレルーヴで勢力争いが生じるかもしれない。
しかし、そうでないのに殺したとなれば、これはセローフ側も擁護はしないだろう。
ビアニーはジュニスにステレア、更にレルーヴとスイールを同時に敵に回すことになりかねない。
そうしたことを説明すると、ジオリスも不承不承納得したようだ。
「……そうですね。分かりました」
「明らかになれば、何とか隙を見つけて始末するつもりだし、難しい時はおまえにもう一度知らせる。その時に善後策を練ることにしよう」
「そうですね」
「……ま、そういうことで、ビアニー軍を出たら出たで、色々難題が増えているということだ」
ようやく話を元に戻すことができた。
そうなると、ジオリスは当然ガフィンについて聞いてくる。
「ガフィンはどうするのですか? 兄上の言う通りならば、今のままだと相当まずいものと思いますが」
「……これについては、おまえの方からセシエル・ティシェッティに頼んでくれないか? ビアニー王に伝えて糾弾してもらいたいので証拠となるものを寄越してもらいたい、と。彼はネーベルの樹海にある研究所の場所なども知っているらしいし、この件では色々頼りになる」
「その上で、グリンジーネの国王とライリス兄上に頼めということですか」
「あぁ、この件に関しては俺を適当に糾弾してくれても構わない」
「それはさすがに……いや、まあ、多少は糾弾の声が出るかもしれませんね」
元々、ガフィンやシェーンといった人材は、ソアリスがバーキアやガイツリーンに侵攻するために集めてきた人材であったが、ビアニーの外から来たという素性面で問題となっていた。
それをはねのけて起用した結果、バーキアもピレントもネーベルも占領できた。結果が出ているのでソアリスを非難する者はいなかったが、問題となっていることが分かれば、糾弾する者もいるだろう。
「好きなように言わせておけばいいよ。どれだけ非難されても俺はいないから聞こえないし、そいつらも二年三年経てば忘れているだろう」
「まあ、そうですね」
「とにかく、そういう形で頼む」
「……分かりました」
いつまでも一緒にいると怪しまれる。
話が一区切りついた時点で、2人は別れてテントに戻ることにした。
歩きながら、ツィアは腕組みをして考える。
(ジオリスの奴、本当にアルフィムの件を納得したんだろうか……)
と。
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