第8話 ビアニーと二大災厄
翌日、フリューリンクからネーベルへと至る街道を進む七人組の姿があった。
ビアニー軍に対して、撤退交渉を行う七人組である。
内訳はステレア軍からはビアニー軍撤退に貢献したレナ・シーリッド。
ホヴァルトからはジュニスとルビア、自由騎士団からはツィアとファーミル。
残りはステレア軍の従者である。
ジュニスが不思議そうにツィアに尋ねる。
「アルフィムは何で来ないんだ?」
「……フリューリンクからビアニー軍を追い出すのに協力した手前、ジオリスと顔を合わせづらいらしい」
ツィアが渋い表情で話をする。
アルフィムは「この2人に任せれば大丈夫、自分達はフリューリンクを散策してベルティのことも調べておく」と完全に丸投げである。かつてセシエル・ティシェッティから「エディスに全部丸投げされて大変だ」と聞いていたが、今やその役割は自分に移ったらしい。
ただし、ジオリスと顔合わせしないこと自体は良いこととも思える。どちらも落ち着きがないので、カッカしだすと止まらない。その場で喧嘩しはじめるかもしれないからだ。
「俺達は自由な立場であるので、特定の要望は出しづらい。話の主導権はホヴァルトに任せるということで良いだろうか?」
ツィアはルビアに提案した。
ジュニスは直感的な考えの持ち主でそれ自体は鋭いのであるが、交渉ではアテにならない。
理論的に話を組み立てるのは、この中ではルビアがもっとも優れているだろう。
「別にいいけれど、そうなるとホヴァルトが独り勝ちになるかもしれないわよ?」
「それでもいいよ。こちらのリーダーは遊んでいるのだし」
「リーダーというと、彼女にはベルティに行くみたいな話があるみたいね?」
「……あぁ。ベルティが統一されれば、ステレアにとっては優位になる。当然、ステレア女王はそういう方向にもっていきたいのだろう」
ツィアの言葉に、ルビアが不思議そうな顔をする。
「今の言い方だと、貴方本人はあまり嬉しくなさそうに聞こえるけれど?」
「……そう聞こえたのなら、多分深読みのしすぎだ。話の展開が急すぎて驚いているのは確かだが、別に反対しているわけではない」
ビアニーとしては、ベルティが統一されてステレアの支援を行うことは困るが、ウォリス1人を御し切れていない現状を見れば、ビアニーが攻勢限界点を超えてしまっていることも明らかだ。
今回の撤兵を実現させて、ビアニーが現状のまましっかり良い方向を目指す方が良いのかもしれない。
(以前は、ジオリスが成長して、俺が戻ればもっと進めると思ったがジュニスとアルフィムの出現で全てが変わってしまった)
指揮官の問題があったとはいえ、僅か55人で2万近いビアニー軍に攻撃を敢行して3人の死者のみで追い返してしまったのである。尋常なことではない。
自分がビアニー側に戻ったとしても、とてもではないが、太刀打ちできない。
(少なくとも、ガイツリーン同盟参加側という建前がある以上、ホヴァルトは今後もステレア側だ)
また、その方がホヴァルトにとっても賢いだろう。
いくらジュニスを擁すると言っても、フリューリンクを落とすというのはさすがに骨であろう。
もちろん、ジュニスの大魔法なら城門を破壊することは可能かもしれないが、フリューリンクの強みはそれ以外も要害であるということだ。大魔法も無限ではないはずだから、フリューリンクを破壊しきるのは難しいし、となると、数の少ないホヴァルト軍がステレアに勝ちきるのも難しい。
一方、ピレントやネーベル、あるいはバーキア地域はそうではない。ホヴァルトは少数ではあるが、そのために神出鬼没さも有している。城門を破壊すればピレント王都アッフェルやネーベル王都バーリスなどは簡単に落とせる。ガフィンが怪しいことをしているバーキアも同じだ。
つまり、ジュニスにとってはステレアを攻めるより、ステレアと組んで周りを荒らす方が賢い。
ホヴァルト単体でも非常な脅威であることを考えると、アルフィム・ステアリートをどうしてもジュニスから切り離す必要がある。この2人が組んでしまうとビアニーにとって絶望的な事態となるからだ。
その意味ではリルシアがベルティに行かせるよう仕向けたのは、対ガイツリーンという観点では実は有難いとも言える。
(このまま、アルフィムをジュニスから切り離して、うまいことスイールに戻すような方向性に持ち込むのがベストだろう。正直考えたくないが……オルセナ女王として押し付けることも今となっては最悪の展開ではなくなっているのかもしれない)
オルセナの荒廃ぶりは大魔道士なら何とかできるというものでもない。アルフィムがエフィーリア・ティリアーネ・カナリスとして即位したとして、立て直すのに10年はかかるだろう。
その間に対ジュニスを考え、ネミリーやセシエルとの関係を重視すれば、ビアニーが大陸の災厄2人を同時に相手することは避けられる。
この路線で行くしかないだろう。
とはいえ、まずは現状の山を一つ乗り越えなければならない。
自らの弟ジオリス・ミゼールフェンを含めたビアニー陣営との交渉だ。
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