第7話 停戦交渉・1

「そうだね、ツィアさんもルーリー王子の陣営にいるのだし」


「私達ラルス王国もベルティの安定は望むところですので、アルフィムに従いますよ」


 シルフィとファーミルも、アルフィムの考えに応じた。エマーレイは無言だが、妹のシルフィが従っている以上、特別反対ということはないだろう。


(反対ではないのだが……)


 取り残された形のツィアは迷う。


 ルーリー・ベルフェイルがベルティ王国を統一する。


 それ自体に個人的な反対はない。


 ただ、ベルティが一つになり、ステレアを支援するとなると、ビアニーのステレア占領は見込めない。その先にあるアクルクア統一もなくなることになる。



(それ自体が無理な話ではあったが……)


 ビアニーのアクルクア統一という目論見に現実味がなかったことは否めない。


 ベルティが最大限に混乱していればステレアまでは統一できたかもしれない。ただ、そこからベルティとなった時に、ベルティが混乱したままビアニーに占領される、というのは虫の良い予想だ。


 人口も生産力も高いベルティは、国内の戦いなら百万規模の兵力を動員することが可能だ。もちろん、六人の王子がそれぞれ争っている状況であるが、ビアニーという外敵に対しては一致団結しうる。そこに負ければビアニーに後はない。


(ルーリー殿下がベルティを支配することは悪くはない)


 仮にアルフィム主導でそうなったとしても、ツィアが困ることはない。



(ただ、この実績がオルセナ女王エフィーリアに連なる可能性がある)


 ツィアの最大の懸念、というより不安はそこにある。


 ひとまずオルセナ王女エフィーリアということを忘れた場合、アルフィム・ステアリートの動きは必ずしもビアニーのマイナスではない。


 しかし、一旦彼女がオルセナ女王を受け入れるとなった場合、「フリューリンクを解放しただけでなく、ベルティ統一にも貢献した偉大なるオルセナ女王」となりうる可能性がある。


 このままの状態に甘んじるのはまずい。



 そう考えていると、シルフィが質問してきた。


「ツィアさんはどう思うの?」


「えっ?」


 自分の考えに集中していて、何を聞かれたのか分からなかった。


 シルフィが「えぇ~」と呆れた顔をする。


「お姉ちゃんのダメダメ病が移ったんじゃないの?」


「ちょっと、ダメダメ病って何よ?」


 シルフィの失礼極まりない言葉にアルフィムが抗議するが、「じゃ、お姉ちゃんは立派、立派なの?」と聞かれると途端に口笛を吹いて場を離れた。


「ルーリー・ベルフェイル支援でいいんだよね?」


「あ、あぁ、もちろんだとも。俺はルーリー殿下の下にいるわけだから、その支援に反対の訳がない」


「じゃ、みんな決まりなんでルーリー殿下を王にしよう、って感じだね」


 そう言って、シルフィは親指をサムアップした。


 自分はあの人とは違うと言い続けているシルフィだが、段々その人……アルフィムの楽天思考に侵されているような感がある。



(これが運命なのか……)


 このままであればビアニーに良くないように思うが、それを決定づけるものもないし、反対できる状況もない。


 何とも言いづらい状況にあるツィアであるが、そこに救いの手が入ってきた。


「あ、すみません。よろしいですか?」


 不意に尋ねてきた声の主は、ステレア軍司令官のファビウス・リエンベアだ。


「実は、昨日の戦闘でビアニー軍の司令官が戦死したということでして、その遺品などを材料として一旦、ステレア領からビアニー軍に出てもらいたいと思っているのです」


「……??」


 アルフィムはどういうことだとばかりに目を白黒させている。


「つまり、ステレアとしてはビアニー軍に領内から出て行ってもらいたい。今回の勝利で得た代物を吐き出しても良いからそうならないか打診したいということだよ」


 ツィアの説明に「あ、なるほど」と頷いた。ファビアスもその通りと頷く。


「ただ、ビアニー側とすれば、私達ステレアの者とは話したくないでしょうし、ホヴァルトは今後の事を考えてビアニーと接触したくないということです。ということで、フリーの立場である貴方方が間に立っていただければと思うのですが、いかがでしょうか?」


「分かりました。大丈夫です」


 アルフィムが即答した。


「ジオリスと戦いたくはないですし、お互い同意のうえで妥協するのなら、反対する理由はありません。でしょ、ツィア?」


「あ、あぁ……」


 ジオリスと交戦したくないのは同感である。


 また、ビアニーが一旦、ステレア領から出て、仕切り直しとなることはさしあたり両国ともにマイナスとはならないだろう。反対する理由はない。


「では、間に立っていただけますでしょうか?」


「はい。彼がうまくやってくれるはずです」


 アルフィムは満面の笑みである方向を指さす。


 シルフィとファーミルも「そうだよね」と頷く。



「えっ、いや、その……」


 指さされたツィアは、回答に窮して、しばし言葉を失った。

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