第5話 凸凹共同軍結成?
アルフィムは「ジュニスと協力すればフリューリンクのビアニー軍を何とかできるのではないか」と極めて安易に話を始めた。
それを受けたジュニスは……
「俺も少し前にフリューリンクにいたんだが、1人で事態を打開するのは難しそうだと思った。だけど、アルフィムと協力すれば何とかなりそうな気はするな」
あっさりと同意する。
三分前までここにいる者達はホヴァルトの管理者と、そこを勝手に通過しようとする不法侵入者で対峙していた。
たった今、2人を除いた全員に「このままではまずい」という空気が広がる。
「いや、お姉ちゃん。フリューリンクにいるビアニー軍は1万5千を超えるって話だよ?」
シルフィが諫めるように言えば、ルビアも後に続く。
「戦争慣れしていないところならともかく、ビアニー軍は戦闘慣れしているわ。魔法で脅かすのはそうそう通用しないわよ」
ホヴァルト王妃というルビアの言葉に、ホヴァルトの兵士達も「さすがに無理ではないですか?」という質問を次々と投げかけている。
そうした懐疑論に対して、ジュニスは頷きつつも反論した。
「だけど、さ。ビアニー軍も主力の将軍はいないだろ? ジオリス・ミゼールフェンをはじめ有力な将軍はステレア北部にいて、フリューリンクにいるのは二線級という話だ。そいつらなら何とかなるんじゃないか?」
「そうそう。やってみないと分からないわよ」
「……」
ルビアが非難がましい視線をツィアに向けてくる。「お前達が連れてきた変な娘のせいで大変なことになりそうだ。何とかしてくれ」と言わんばかりだ。
「エディス姫……じゃなくて、アルフィム」
「何かしら?」
アルフィムがくるっと振り返る。
「さっきシルフィちゃんが言ったようにビアニー軍は最低でも1万5千くらいいる。そこに少数で攻撃を仕掛けて失敗したら、我々は間違いなく全滅するぞ」
「えっ、ダメなら逃げれば良くない? 私達は5人でしょ?」
アルフィム自身、シルフィ、ツィア、エマーレイ、ファーミル。
全員、逃げようと思えば逃げられるくらいの力や能力は持っている。
「ジュニスはどれくらい連れていくの?」
「そうだなぁ」
ジュニスは空を見上げて指折り数える。
「50人くらいは連れていけるかな」
「たったの55人じゃない。逃げようと思えば逃げられるし、それで相手が分散すればステレア軍にはチャンスじゃないの?」
「……」
ツィアは返す言葉を失った。
確かに少数の部隊は行動が早い。アルフィムの言うように、攻撃をしてダメと分かればすぐに逃げるということは不可能だはない。
エディス・ミアーノ改めアルフィム・ステアリートはおそらく戦場の知識はさほどない。しかし、何故か本質的なことを本能的に理解している節がある。それはジュニスも同じかもしれないが、滅茶苦茶なことを言っているようで、完全に不可能ではなさそうと思えるあたりが厄介だ。
返事に窮して視線を移すと、ルビアと目が合った。
「お互い、苦労するわね……」
同情するように言葉をかけられ、ツィアは急に泣きたくなった。
「いや、一緒にしないでくれ……」
ジュニスが山の上の方を指さす。
「細かいことをこの場で決める必要もないだろう、歓迎したいから俺達の拠点地まで来てくれ」
「分かったわ」
似たもの同士ということか、アルフィムとジュニスは完全に波長が合ったようで並んで行動をしている。何の先入観もない者がこの場に居合わせたら、この2人がパートナーで、彼らに引きずられるツィアとルビアもまたパートナー同士と思うかもしれない。
「……もう、どうしようもないわ」
「同じく……」
引きずられる者同士は匙を投げてしまった。
つまり、この2人を止められる者はどこにもいないということである。
ジュニスが「着いてこい」と先導し、一行はホヴァルト内の集落に向かう。
「ツィアさん、どうするの?」
シルフィが不安げに尋ねてきた。もちろん彼女の言いたいことはよく分かる。
元々、フリューリンクに籠城するだけ、という話で彼らはフリューリンクに向かっていた。
今、明らかにビアニー軍を撃退するという前提で動いている。
アルフィムとジュニスは別格的ではあるが、相手の人数は圧倒的だ。
とてもではないが、撃退できる計算が立たない。
そう思うのではあるが……
「あの2人は、何も考えていないが、何でもやりそうな感もある……」
ツィアはそう思ったし、この2人のやりたいようにやらせるしかないのではないか、という気になってきた。
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