第4話 大魔法×2・2

 柱のように舞い上がっていた炎がようやく消えた。


 その中に、涼しい顔をしたアルフィムの姿がある。


(あの魔力を受けて、全く無事だと……?)


 生きていることにまず安堵したツィアであるが、全く無傷ということには理解ができない。



「今度は、私の番ね……」


 アルフィムがニコリと笑い、しなやかに右手を回す。


 先ほどまで喜んでいたシルフィも、緊張した表情で周囲を見回す。


 ジュニスがあれだけの炎を出していたのだ。彼女もまた、ほぼ同じクラスのものを使うに違いない。


 下手をして巻き添えを食らうと、大変な目に遭うかもしれない。


「……炎ではない、と思いますが……、周辺には何も変化がありませんね」


 ファーミルも周囲を見渡す。



 ジュニスをはじめ、ホヴァルト側も周囲の様子を伺っているが、一見して変化が起きない。


 一体どういう魔法なのだ……という疑問が周囲に広がった瞬間、ジュニスがハッと地面を見た。


「下か!?」


 慌てて飛びのこうとした瞬間、地面が動く。


「大正解」


 アルフィムは前に向けた右手をグッと握りしめた。


 地中から轟音とともに閃光が何本も走り、ジュニスがいた付近の地面が大きくはじけ飛んだ。



「うわあぁぁ!」


 叫び声とともにジュニスは大きく吹き飛ばされ、そのまま地面に激突した。


「陛下!」


 と、叫んだ後、ルビアが厳しい視線をアルフィムに向ける。


 それに従いホヴァルト側の兵士達も武器を構えた。


 どうやら国王の仇を討とうとしているようだが。


「慌てないでもらえる?」


 アルフィムが平然と話しかける。


「仇討ちは、死んだことを確かめてからでも遅くないわよ?」


 彼女がそう言った瞬間、100メートル近く離れたところにいるジュニスの指が小さく動いた。



 ジュニスはしばらく身じろぎしていたが、やがて気を取り戻したようだ。


 顔をあげて、アルフィムの方を向く。それで事態を理解したのだろう。両手をパッとあげた。


「俺の負けだ。凄いものだった」


「お粗末さまでした。通ってもいいでしょ?」


「……あぁ」


 ジュニスは参ったとばかりに笑い、しばらく考えているが。


「どうやって、俺の炎を切り抜けたんだ?」


 と尋ねてきた。



「本当! あたしも、これは死んだわって確信したもの」


 シルフィが真っ先に賛同するが、もちろんそう思っていたのは彼女だけではない。全員が無言で頷いている。


「たいしたことはしていないのよ。炎って空気の中にある何かを使って燃えるんでしょ? だったら、周囲から空気をなくせば燃えないかなと思って」


「は……? 空気を、なくす?」


 ツィアは目を丸くした。


 しれっとした顔で言っているが、アルフィムの言ったことというのは、自然ではまずありえないことだ。


 それにどうやってやるのかも全く理解できない。


「そう。で、エネルギーを早めに使わせようと燃えやすいものをその外側に置いたから派手に外側で燃えたんだと思うわ。当然、結構疲れるんだけど、ジュニスが使ってくれたのが火だったから助かったわ。私、雷だけを引き出すのはちょっと苦手で別の誰かが周辺の火を使い切ってくれないと、延焼が怖くて使いづらいし」


 どうやら、ジュニスが先手を打ったことは彼女の魔力的にも都合のよいものだったらしい。


「……術者が互角であった場合、先に手の内を見せる方が不利とは、よく言うわよね」


 ルビアも呆れたように両手をあげる。


「こんなのが2人もいられたら、勝つために真面目に頭を使うのがアホらしくなってくるわ」


「確かに……」


 ツィアも同感である。



「あとは私もそうだけど、ジュニスも殺す気はなかったみたいだから止めやすかったのもあるわね。もし、完全に殺す気で全力の魔力をぶつけられたら、止めるためにもっとへばって、更にしょぼい雷になっていたと思う」


「……それで負けていたら世話がないけどな」


 ジュニスが「よっと」と声を出して立ち上がる。


「まあ、何にしても俺の負けだ。何ならこの国を支配するか?」


「えぇっ!?」


 周囲は驚くが、アルフィムは涼しい顔で首を振る。


「面倒だからいい。あっ、そうだ」


 代わりに何か思いついたようだ。


「もし協力してくれるのなら、一緒にフリューリンクに行かない?」


「フリューリンクに?」


「そう。私、フリューリンクを攻囲しているビアニー軍を何とかしたいんだけど、1人では無理かな~と思っていたのよ。でも、ジュニスも含めてここにいるみんなが一緒なら何とかなりそうな気がしてきたの」


 アルフィムの言う『ここにいるみんな』が目を丸くする。



 大陸屈指の魔道士同士の戦いという嵐は過ぎ去った。


 しかし、別の嵐が今まさにやってこようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る