第2話 異端児2人の遭遇

 ホヴァルトの中心地ゾストーフ。


 エレンセシリアの旧中心地であったこの区画は、4000メートル近い山の頂上近くまで伸びているが、居住域には適さない。


 現在はそこから1000メートル以上低い場所で200人の人員が集まって建築作業が続いている。都というにはまだまだ程遠いが、500人くらいが居住可能な集落には発展していた。


 その中心にある、これまた宮殿と言うには小さい建物にホヴァルト国王ジュニスと王妃ルビアが居住していた。その隣にある二つの建物にホヴァルト宰相ライナス・ニーネリンクとサーレル族長ミリムが居住している。



「陛下」


 2月のある日、王妃ルビアの兄でもあるミリム・サーレルがライナスを伴い、国王ジュニスを訪ねた。


「どうした?」


「西側からの報告なのですが、謎の集団がレルーヴ側から領内に入り、東に向かっているとのことです」


「謎の集団がホヴァルトに入ってきた?」


 ジュニスが楽しそうに身を乗り出した。


 ホヴァルトは完全に外界から隔離された場所である。3年前、部族が全滅したことを受けてジュニスが低地に降りたこと自体が極めて珍しいことであり、その間も含めて200年以上、外からホヴァルトに乗り込んだ者がいるという記録はない。


 であるだけに、実際に入ってきた者が出て困惑しているようだ。


「どうすれば良いでしょうか?」


「うーむ……」


 面白そうではあるが、どうしたら良いかは思い浮かばない。ジュニスは腕組みをして、妻に尋ねる。


「どうすれば良いと思う?」


「……通過されて損をするわけでもないですが、低地から大勢来られても厄介になるでしょう」


 ホヴァルトは全域を合わせても人口5万人ほどである。低地に比べると圧倒的に少ない。


 仮に低地から大量に人が押し寄せてこられた場合、色々と困る事態が発生しうる。


 そうならないように、何らかの措置が必要である。


「とすれば、始末した方が良いということか?」


「いえ、始末すると何も伝わらなくなるので、這う這うの体で逃げさせる方が良いでしょう」


「なるほど」


 相手が死んでしまうと他人には何も伝わらない。


 死ぬような恐怖を味わわせて、逃げさせたほうが良い。


「よし! そうだと分かれば、早速行くとしよう!」


 ジュニスが立ち上がり、ミリムが驚く。


「え、陛下御自ら?」


「当然だろう。ホヴァルトにうっかり迷い込んだなんて連中はいないだろうし、確信犯的に乗り込んできたに違いない。そんな連中は、俺自ら相手してやるべきだろう」


「分かりました」


 止めても無駄と分かっているのだろう。ミリムもライナスも黙って従うことにしたようだ。



 一時間後、ジュニスはミリムとルビアを連れてゾストーフを出た。


 そのまま報告があったという西へと向かう。


「レルーヴ方面からの街道はあまり高いところに行かないまま東に進むルートがあります。相手はそこを進んでいるのでしょう」


「だろうな。俺としては、ゾストーフまで殴り込みに来るくらいが面白いんだが」


 ジュニスはそう言って笑うが、周りは苦笑するのみである。


「さっさと行くぞ」


 周りを促し、ジュニスは西へと向かう。


 レルーヴ側へと繋がる道……半分近くは獣道のような道を西へと向かう。


「うん?」


 進むにつれて、後ろからついてくる者が増えてくる。ゾストーフを出た頃は5人だったが、いつのまにか50人ほどになっている。


「相手は5人だろ? こんなにいらん。元の場所に帰れ」


 ジュニスは忌々し気に言った。ミリムが「いや、そういうわけにはいきませんよ」と進言するが、再度「いらないから戻れ」と言うと、話し合いの末に40人が戻っていった。


「……10人もいらんのに」


 そう言いながらも、さすがにこれ以上「来るな」とも言いづらい。ジュニスは10人の部隊で進んでいくことにする。



 進むこと2日、少し高台になっている場所があるので、そこで相手が来るのを待つことにした。


 座っていること2時間、西の方から話声が聞こえてくる。


「魔族が住むような山って聞いたけど、このあたりは低いね」


「実際に入ってみる者がほとんどいないからな。予想ほど怖くないのだろう」


 などなど、思ったほど高地ではないことに意外な思いを抱いているようだ。


「確かに、こんな感じで歩く連中を放置しておくと、後々大勢やってくるかもしれないな」


 ジュニスも頷いて、相手が近づくのを待つ。



 20分もすると、5人の影が見えてきた。


 人数を見定めて、ジュニスは立ち上がり呼びかける。


「おい、お前達! ここがどこか分かっているのか!?」


 すぐに先頭の人物が前に出て来た。他の者と異なり、この人物だけ目深にフードをかぶっている。


 ただ、話し声からは若い女性であることが分かる。


「山の中」


「……」


 ジュニスが呆気にとられて一瞬戸惑ったところに、ミリムがサポートを入れる。


「ここがホヴァルトだと知らんとは言わせんぞ!?」


「それは知っているけれど、『通るな』とはどこにも書いてなかったわよ?」


 清々しい答えが返ってきたが、後ろにいたポニーテールの少女が呆れたように言う。


「お姉ちゃん、書いてあったとしても無視して通ったでしょ?」


「うん。別に従う義務もないし」


 フードの女性の声に後ろの少女が苦笑する一方、ミリムが顔を赤くして叫ぶ。


「お前達、ホヴァルトを舐めているのか!?」


「えぇ? そんなつもりはないんだけど?」


 言葉はともかく、態度は明らかに舐めている。


(面白い)


 ジュニスは高台から下へと飛び降りた。

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