第14話 アルフィム・ステアリート・2

 ハルメリカの南側にある収容塔に幽閉されてほぼ一日が経とうとしていた。


 ツィア・フェレナーデはどうしようもなく、運命に天を任せて次の展開を待つしかない。隣の独房にいるファーミル・アリクナートゥスも、50メートルほど離れたところにいるらしいエマーレイ・フラーナスも同じ心境だろう。唯一、シルフィ・フラーナスだけが「あたしは無罪です~」、「児童虐待反対~」と叫び続けている。



(どうして止めたんだろうな……)


 ツィアが思うことはほぼその一事だ。


 シルフィが助けを呼んで、聞いていたかのようにネミリーとその兵士達が現れた。


 それでも尚、倒れているエディスにとどめを刺す時間はあったはずだ。


 どうしてそうせずに短剣を持つ手を止めてしまったのか。


 もちろん、それは初めてのことではない。


 エルリザの墓地でも、黙って見捨てていれば死んだはずのエディスをわざわざ助けてしまった。


(俺はまだ、彼女がオルセナ王女だと確信できていなかったということなのだろうか?)


 エディス・ミアーノ本人に対して敵意はない。多少の理由では、彼女を殺すことはできないだろう。


 彼女はオルセナの王女である。その理由は十分すぎるほどにあるが、自分のためらいを乗り越えるほどには納得できていなかったのかもしれない。薄々自分でも感じていたから、「そうではない」と言い聞かせていたところもあった。それだけでは足りなかったのかもしれない。



 溜息をついていると足音が聞こえてきた。


 どうやら2人のようだ。一人はネミリー・ルーティスだろう。


 甘々のエディス・ミアーノと異なり、彼女はしっかりと調査をするはずだ。


 調査しなくても、セシエルが来れば大体のことは分かる。


(特に申し開きをすることもないしな)


 未遂とはいえ、敵意を見せた以上、軽い処分で済むはずはない。


 シルフィ達を巻き込んだのは申し訳ないが、それも含めて運に天を任せるしかない。


 しばらくすると1人が足を止めた。近づいてくるもう1人が鉄格子の前に姿を見せる。


「エディス姫……」


 沈んだ面持ちのエディス・ミアーノが正面にいた。


 そうさせた一環は自分にもある。


 彼女の手で直接処分を受けるなら、それも運命かもしれない。だから素直に尋ねる。


「……処分が決まったのでしょうか?」


「私が決めていいのなら」


 魅入られるような唇が動き、不安げに言葉を発する。


「ガイツリーンのことは知っている?」


 エディスの言葉に、ツィアは一瞬面食らった。


 もちろん、セシエル以外は知らないだろうが、ガイツリーンの状況を半分以上作り出している自分に「ガイツリーンのことは知っている?」もないだろう。


「まあ、大体は……」


「ビアニー王国がガフィン・クルティードレという人物と組んで、変な魔道を実験しているということは?」


「……!」


 これはツィアには意外な質問であった。


 まさか、ガフィンのことをエディスも知っているとは。


 とはいえ、よくよく考えれば、元々エディスと出会ったのもオルセナのサンファネス。


 そこで協力して倒した男もガフィンの手の者であったようだ。ならば、エディスが彼らのことを知っていたとしても不思議ではない。


 ならば隠していても仕方ないか、ツィアはそう考えてこの部分で知ることは全て話すことにした。


「サルキア殿下を殺したのも、彼の者の手下だそうですね」


 エディスの目が丸くなる。


「……えっ、貴方が殺したんじゃないの?」



 今度はツィアが戸惑った。


「いや、私にトレディアのサルキア殿下を殺す理由なんてないですよ……」


「そういえば、そうよね……」


 エディスが考え、後ろを見た。恐らくそこにネミリー・ルーティスがいるのだろうが、彼女も答えに迷ったのだろう。


 答えがない間に、エディスは何か思いついたようで次の言葉を口にする。


「ネーベルのウォリスとも組んで、ガフィンの手勢がステレアにも広がろうとしているみたいなの。私はそれを止めたいのよ」


「はぁ……」


 とりあえず、エディス・ミアーノがガフィンにとてつもない嫌悪感を抱いていることは理解した。元々警戒しているところに、彼女の許婚であるサルキアを殺したとなったのだから当然ではあるだろう。


「しかし、ビアニー軍を止めるのは大変ですが?」


「でも、ジオリスは私が敵に回ると危険だということは理解しているはずなのよ」


「それはまあ……」


 エディスの魔力が脅威であるということは実際に本人の口から聞いているから間違いない。


 それに、他ならぬツィア自身もそれをとことん痛感している。


(確かに、エディス姫がフリューリンクに行けばジオリスは攻められんだろうな)


 元々堅固なフリューリンクにエディス・ミアーノまでいるとなれば、ビアニー側は手の出しようがなくなる。仮に自分が指揮していたとしてもどうにもならないだろう。



 とはいえ、そう簡単にフリューリンクに行けるのかという問題がある。


「ですが、フリューリンクにどうやって行くのですか? 船でバーリスから? 陸路でオルセナやベルティを経由するのですか?」


「そんな遠回りをしたくないわ」


「……えっ、ではどうやって?」


「私の従弟にセシエルっていう情報ゲットに特化したのがいるのよ。彼が、ホヴァルトの人達とも知り合いになっていたみたいなの。ホヴァルトを突っ切ればすぐにステレアに行けるでしょ?」


 にこやかに話すエディスに、ツィアは絶句した。


「……正気?」



アルフィムの考える道筋:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093087274582719

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