第13話 アルフィム・ステアリート・1

 ツィア・フェレナーデはいわゆる傭兵的・冒険者的な気質の持ち主らしい、とネミリーは推測した。


 特定の組織に所属せず、金で仕事を請負い、ベルティの使節となったり、サルキアを暗殺したり。


 そのついでとして自分もサルキアの縁故者として狙っていた。非常に分かりやすい話だ。


「ねぇ、ネミリー……」


 となれば、対策も分かる。


「何?」


「私にお金を貸してくれない?」


「……エディスに?」


 けげんな顔をするネミリーにエディスが改めて彼らの立場を確認する。


「つまり、ツィアやシルフィちゃんはお金で仕事をしているわけでしょ?」


「……恐らくね。もしかして、あいつらを金で雇おうというわけ?」


 ネミリーの視線が険しくなる。


「ダメかな?」


「ダメに決まっているでしょ!」


 ネミリーが大声で叫ぶ。耳元なので思わずエディスは耳を押さえた。


「そんなに叫ばなくても聞こえるわよ……」


「何を考えているの? あいつらに殺されそうになったんでしょ!?」


「それはまあ、そうだけど、それはサルキアの延長上でしょ? だから、私が彼らを雇うことにすれば問題なくない?」


「あいつらを雇って何をするのよ?」


 ネミリーは明らかに納得いかない、という顔で睨みつけてくる。



「さっきも言ったと思うけど、セシエル同様に、私もガフィン・クルティードレは放置できないと思うのよ」


 この点についてはネミリーも同意する。


「……確かに、ガフィンをこのまま放置しておくのは色々問題がありそうね」


「だからビアニーを一回止めないといけないから、ステレアの支援をしてフリューリンクに行きたい。ただ、私はこういう性格だから、細かいことには気が回らないところがあるでしょ。その点はツィア・フェレナーデやシルフィちゃんならカバーしてくれると思うのよ」


「……それはそうかもしれないけど」


「そこは間違いないのよ。去年オルセナで旅をしていた時も、ハルメリカがネーベル軍に襲われた時も、2人には助けられたし」


 エディスはそこまで言って、ポンと手を叩く。


「ついでに、私、名前も変えようと思うの」


「は?」


 ネミリーの目が丸くなった。


「エディス・ミアーノを名乗るとミアーノ家とかスイールが関係していると思われるかもしれないでしょ? だから、それとは完全にかけ離れた個人になりたいのよ」


 ミアーノという名前を名乗ること自体、ミアーノ家に未練を感じているように聞こえる。


 しかし、ミアーノ家はセシエルや別の人間に任せた方が良い。


 である以上、関係ない別の名前を名乗る方が良い。


「……となると、今後は私もエディスのことを違う名前で呼ばないといけないわけ?」


 ネミリーが不機嫌そうな顔になる。


 10数年、エディスという名前で呼んできているのだ。今更別の名前で呼ぶなど、面倒極まりない。


 エディスは慌てて両手を横に振る。


「さすがにネミリーやセシエルにまで違う名前で呼んでくれとは思わないわ。だけど、世間的には別の名前にしたいのよ」


「……世間的には問題児がついにやり過ぎて、名前を変えたって思われるわよ?」


「それならそれでもいいのよ。とにかくミアーノと違うと思ってもらえば」


「うーん」


 ネミリーは完全に納得していないようだが、これ以上言っても無駄と思ったらしい。


「ちなみに、どんな名前にするつもりなの?」


「前、エリアーヌがピレント女王になる時にアルフィムっていう伝説の天使の名前を名乗ったのよ。で、そこに星の光を意味するステアリートをくっつけて、アルフィム・ステアリートって名乗るつもりなんだけど、どう?」


「……家とか関係なく、要はカッコいい名前を名乗りたいわけね」


「まあ、半分くらいは」


 屈託なく答えると、ネミリーは大きく溜息をついた。



「……言いたいことは分かったわ。エディスがそうしたい、というのなら私としては基本的には応援してあげたいけど、ただ」


「ただ?」


「あの連中は信用できないわ」


「うーん」


 それを言われると弱い。


 シルフィと残りの2人は分からないが、少なくともツィアが自分に手出ししてきたことは間違いないからだ。


 しかし、一方で姉に誘われて墓場で襲われた時、薄れていく意識の中で聞いた声はツィアのものではなかったか、という思いがエディスにはある。


「じゃあ、どうするの?」


「お金のこととか、今後の目標についてはエディスが直接話してちょうだい。ただ、そこに立ち会わせてもらうわ。それで、私の中で『こいつらは大丈夫だろう』と思ったら、エディスの言う通りにすればいい。そこの納得ができないなら、彼らを釈放するわけにはいかないわ。ここの管理者は私なわけだし」


 確かにハルメリカ市が逮捕をし、収監している。


 それを解除するためには、ハルメリカ市の裁判で釈放と決定されるか、市長代理であるネミリーが赦免の処分を下すしかない。


「分かった。直接話をしてみる」


 エディスの言葉に、ネミリーは大きく息を吐いて、執事のコロラ・アンダルテを呼んだ。


「収容塔のカギを持ってきてくれる?」

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