第12話 誤った推測
背中をしたたかに打ち付け、迫りくる痛みに意識を失い……
しばらく無意識の中をさまよっていたエディスを覚醒させたのは、別の物凄い痛みだった。
「痛い痛い痛い〜!」
あまりの激痛に身を起こそうとし、その時初めて自分がうつ伏せの姿勢でベッドの上にいることに気付いた。
「ね、ネミリー様……」
斜め後ろから救いを求めるような声がしたので、そちらを向くと一人の女性がいた。どうやら医師のようだ。
その向こうにネミリーがいるが、あからさまに不機嫌そうな顔をしている。
「いいから薬を塗りなさい」
「で、ですが……」
「塗りなさい」
ネミリーはそう言った。
「も、申し訳ありません。エディス様」
という声とともに、2人の女性がエディスの手足を押さえつける。
「うわーっ! 何をするの? やめて、痛い〜!」
エディスの悲鳴がルーティス家の屋敷に広がった。
10分後。
ようやく解放されたエディスだが、腰のあたりに縄が巻かれて柱にくくりつけられており、ベルと直結している。
さすがに女官長と違い、ネミリーはエディスが逃げる可能性を十分に警戒しているようだ。
苛立ちをあらわに、自分がどれだけ心配したかをくどくどと言い続ける。心配してくれるのはありがたいが、何度も同じことを聞かされるので疲れてくる。
「全く……セシエルからの伝書鳩と、あのヤブ医者がいなければどうなっていたことやら」
「あ、あははは……」
ハルメリカにやってきたエディスは怪我を診てもらうため、かつて一度行ったことのある女性医師を訪ねた。エディスは「ネミリーには言わないように」と口止めしており、彼女も1日は従ったようだが、やはり気になったらしくて伝えに行ったらしい。
それとほぼ同じタイミングでスイールにいるセシエルが伝書鳩を送ったようだ。そこには『エディスがちょっとしたいざこざで腹部を負傷した。あと、ツィア・フェレナーデがエディスを狙っているかも……』と書かれていた。
その後も書かれてあったようだが、雨に降られたようで滲んでいてはっきり分からないという。
それで慌てて探しに行ったところ、ちょうどツィアやシルフィ達と共に倒れているエディスを見つけて全員逮捕・収監したという。
「ぜ、全員、逮捕・収監したの?」
「誰が敵で誰が味方か、中立なのか分からないからね。さすがにイサリア大使のファーミル・アリクナートゥスは違うかなと思ったけど、念の為全員逮捕しておくのが一番安全よ」
「……」
「それより、何でツィア・フェレナーデに狙われているの?」
「……サルキアの関係みたい」
「サルキアの?」
「サルキアは死んだって言っていたから」
ネミリーは大きく目を見開いて「マジ!?」と驚いた。しかし、それは一瞬のことですぐに小さく頷いた。
「……言われてみれば、サルキアの動向に関する話が無さすぎたわ。手紙云々がないのはともかく、本人の動静すら1年近くなかったものね……」
エディスも「確かに」と思った。手紙の返事がないのを忙しいからと思っていたが、本人がどうしているという情報もなくなっていた。
もちろん、その主たる原因はネミリーが散々に言ったためにゼルピナにいる兄ネリアムとルードベック家が動かなくなったこともあるのだが、それにしても情報が無さすぎであった。
(もう少し、その意味を考えるべきだったのか……)
エディスはそうも思う。
ネミリーはその間、別のことを考えているようだ。
「でも、そうだとするとツィア・フェレナーデとその一行はベルティからサルキアを暗殺しに行ったわけ?」
そんなことあるかなぁと首を傾げているが、別の考えが浮かんだようだ。
「そうか。案件ごとに金を貰って、仕事をするタイプなんだ。前はベルティ王子と組んでいて、今回はサルキアが邪魔なタイプから仕事を受けていたのね。そのついでにエディスもというわけか」
そうなるとネミリーはスイスイと推理を組み立てていく。
有能なサルキアに婚約者としてエディスが絡むと危険だ。だから危険が発生する前にツィアを暗殺者に仕立てて、サルキアを暗殺した。
「エディスがサルキアの仇を討つとなっても困るから、エディスも殺そうとしたわけね」
「なるほど……」
「って、何、エディスが納得しているのよ。そういうことなんでしょ?」
「うん。他に考えられないし」
「確かにエディスを個人として殺す理由はないものね。他にありうるとすれば、エディスに振られた男の逆恨みだけど、そういう心の狭い手合はああいうイケメンに頼まないでしょうし」
エディスはひとまず安心した。
姉のことはネミリーの警戒からは外れているようだ。
ツィアの動機も大体理解できてきた。
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