第7話 エディス、イサリアへ

 それから10日ほど様子を見たが、セシエルは戻ってこないし、連絡もない。


「うーん、結構遠くに出かけているのかな……」


 エディスは呑気に考えているが、ネミリーは不思議そうである。


「ビアニーに手紙を届けに行っただけなのに、そんなに時間がかかるものかなぁ」


「でも、セシエルって行く先々で結構トラブルに巻き込まれるじゃない? 今回も多分何かに巻き込まれているのよ」


「ありえなくはないけど、セシエルの情報がないと私達も動きづらいのよねぇ……」


 ネミリーは参ったなぁと頭をかく。



 この10日ほどの間に、セローフに使節を派遣してスイール行きの船についての情報共有を求め、ゼルピナにいる兄ネリアムに対して「戻ってこい」という手紙を出した。


 ただ、それ以上のことはできない。


 ネミリーが外出するとハルメリカは回らなくなるし、エディスを1人でどこかに行かせるといらないトラブルを招く恐れもあるからだ。


「あの馬鹿兄様は相変わらず手紙を出しても返事もしないし……」


 愚痴るネミリーに、エディスが「そういえば」と思い出したように言う。


「最近はサルキアからも全く手紙が来ないわね」


「エディスは手紙を出したの?」


 エディスは首を横に振った。


「出すような話もないし、向こうから返事もないから出す感じでもないし」


「それならお互い様じゃないかしら。サルキアも忙しいでしょうしねぇ。お兄様が意味もなくゼルピナにいるから警戒するしかないし、その一方でトレディア国内の問題も中々進まないみたいだし」


「トレディアはどうなるのかしら?」


 エディスの何気ない問いかけに、ネミリーもお手上げとばかりに両手を開く。


「分かんないなぁ。ベルティもそうだけど、何か完全に膠着状態になっている雰囲気があるよね。外から何かが起きないと動かないような気がするわ」



「外からの何かって、例えば?」


「例えば……」


 ネミリーはエディスをじっと見る。


「エディスがどうしてもサルキアを勝たせたいって言うのなら、ゼルピナにいるお兄様とシェレークさんをサルキアの父グラッフェとの戦いにぶつけることはできる。サルキアは大公とは関係が良いらしいから大公とグラッフェを挟撃する形になって、勝てれば一気に前進できる」


「そんなことができるの?」


「勝てればね。で、勝てた場合もハルメリカは結構な出費を負うし、勝てなかった場合は長期に渡って出費をすることになるから大変なことになる」


「な、なるほど……」


「どうしてもと言うのなら、手伝ってもいいけど、もうちょっとサルキアに頑張ってほしいのが正直な気持ちよね。あ、そういえば」


 ネミリーは話ながら何かを思い出したようだ。


「あいつのところにコスタシュがいたんじゃなかったっけ? 今、何しているのかしら? あいつに手紙を出すのも一つの手じゃない?」


「なるほど。確かにコスタシュはサルキアの下にいるって言っていたものね。じゃあ、スラーンにいるサルキアとコスタシュにもう一回手紙を書いてみることにするわ。紙と机を借りていい?」


「どうぞ」


 エディスは近くの机に向かい、手紙を書き始めた。


 その間もネミリーが今後やりたいことを口にする。


「セシエルが戻ってきたら、イサリアにも行ってもらいたいのよね……」


「イサリア?」


「そう。例のガフィンは司教であって、魔道の専門家ではないわけでしょ。恐らく誰かしら魔道士がついているわけで、そいつが何者であるか調べるためにはイサリアに行ってもらうのがいいんじゃないかと思うわけ……って、忘れていた!」


 ネミリーがまたも何か思い出したようだ。


「イサリアから来ていた大使がいたんだった。彼に聞けばいいんだ」


 ネミリーはコロラを呼んで、イサリアからの大使を呼んでくるように伝えた。


 

 コロラはすぐに出て行ったが、一時間ほどで戻ってくる。


「……現在、所要でイサリアに戻っているようです」


「あら、そうなの……」


 ネミリーはガックリと肩を落とす。


「どうやら、彼もネミリー様と同じく、噂を聞いてイサリアに確認のために戻ったようです」


「あぁ、なるほど。ガフィンにイサリア魔術学院の者が協力しているかもしれないとなると、評判が悪くなるかもしれない。だから、私達が気づくよりも早く、調べに戻ったというわけね。うーん……」


 ネミリーはエディスを見た。


「留学に行く前に、会ったことのあるスラッとした優男を覚えている?」


「いたような、いなかったような……」


 はっきり覚えていないというエディスに、ネミリーは「やっぱり」と溜息をついた。


「エディス、パリナと一緒にイサリアに行ってもらえる?」


 何度か行動しているハルメリカの女性護衛要員パリナ・アロンカルガの名前を出した。


「一応手紙も書くけど、魔術学院学長に直接聞いてきてくれないかしら? さすがに学長の顔くらいは覚えているでしょ?」


「当然よ。馬鹿にしないでよ」


「じゃ、任せてもいいわよね?」


「う、うん、分かった」


 私、あの学長が苦手なんだけど……。


 そう呟きつつも、エディスはイサリア行きを了承した。

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