第6話 酒場の噂・2

 夜、コロラと共にルーティス邸に戻った。


「凄い話を聞いてきたわ」


 と、すぐに酒場で聞いてきた話について説明を始める。


 ネミリーは「うん、うん」と頷いてはいるが、ある程度聞く度に逐一コロラの様子を確認している。コロラが頷いているのを見る度に、次を促す。内心で「適当なことをしゃべっているのではないか」と疑っているらしい。


 人を生き返らせる過程で、何らかの兵器にするらしい、というあたりではさすがのネミリーも驚く。


「そんなことがあるの? でも、不完全に生き返ると意思がなかったりするわけか」


 ネミリーの納得にエディスが「そんなことをするの!?」と驚くが。


「いや、私も分からないけど、そんな感じなんじゃないの?」


「嘘でしょ、信じられない……」


「もちろん、私の想像で、実際にどうするかは分からないわよ」


 エディスがことの他驚くので、ネミリーも少しムッとなる。


 まるで自分だけが非人道的なことを考えていると思われたようで不愉快になったようだ。



 ともあれ、一通り話を聞き終えて、ネミリーは「なるほど」と頷きつつ、不可解そうに首も傾げる。


「やはりそこまで具体的な情報が単なる噂として流れてくるのは怪しいわね」


 主人の疑念に、コロラも同意する。


「私もそう思いました。あまりにも具体的で、噂というよりは明確に伝えようというものを感じます」


 主従の2人が同意しあっているが、エディスはきょとんとした顔だ。


「どういうこと?」


「行く前にも言ったと思うけど、誰かが意図的に広めているのよ。ビアニーはこんな酷いことをしています。だからステレアの味方をしてくださいって」


「ということは、ステレアが広めているわけね?」


 エディスの安易な反応に、ネミリーは再度首を傾ける。


「……それも多少怪しいのよね」


「どうして? この話を広げて、ビアニーは酷い、ステレアに味方しようって人を増やしたいんじゃないの? 私もそう思ったし」


「ステレアが知り過ぎているのよ」


「知り過ぎている?」


「つまりね……」


 現在、ビアニーと明確に敵対している国はステレアのみである。


 だから、情報を広めたいと思っているのはステレアしかいないはずだ。


 しかし、情報の中にはガフィンの根拠地がアンフィエルであるというものが含まれている。これはエディスとセシエルが実際に訪れているため、事実ではある。しかし、遠いステレアにいて、どうしてそのことが分かるのか。



「ステレア女王リルシア・アルトリープが怖いお姉さんであるということは聞いているわ。だとしても、ガイツリーン国内はともかく、ビアニー南部のバーキアに関する正確な情報を得ているのは変なのよ」


「そこまで、誰かが調べに行っている、とか?」


「確かにステレアが情報員を出している可能性はあるわ。だけど、その場合もバーキアに送るのは変なのよ。ビアニーの弱点を調べたいならビアニーだし、味方を増やしたいのならレルーヴとかベルティだし」


 ガイツリーン国家の中では最大とはいえ、アクルクア大陸においてステレアは小国の範疇に入る。


 あちこちの国で情報を集める余裕があるとは思えない。


「となると、情報力の強いどこかの勢力がついている可能性があるわ」


「それってどこなの?」


「いや、それが分からないから首を傾げているのよ。常識的に考えればベルティだけど、王位継承で内戦始めたばかりでステレアのために力を使うとは思えないし、ラルスもビアニーの同盟国、ガイツリーンのその他は当然ビアニー側だからね」


「……たまたまバレたんじゃない?」


「ジオリスもエリアーヌも知らないだろうことがどこからバレるの?」


「うーん……」


 エディスは頭をひねるポーズだけしているが、実は何も考えていない。ネミリーが分からないことがエディスに分かるはずがなく、考えるだけ無駄だという結論に達しているからだ。



 しばらく考えたネミリーが仮設を口にする。


「ひょっとしたら、セシエルが何かのきっかけでステレア側についているのかもしれないわね」


「セシエルが?」


 エディスは驚くが、自身もガフィンに憤慨していることもあってか。


「それもあるかもしれないわね」


 と同意する。


「とりあえず、セシエルが戻ってくるまで待つしかないけど、その後はもう一度修道院長に会う必要がありそうね」


「確かに、ガフィンの組織と関与していても良いことはなさそうだよね。姉さんにも言いたいところだけど」


「少なくとも現時点ではやめておいた方が良いわ。エルフィリーナさんがその話に希望を持っている以上、迂闊に取り上げるようなことを言ったら根に持たれるかもしれないわよ」


「うん……」


「ま、修道院長を押さえておけば、大丈夫だと思うけど……うーん」


 ネミリーは面白くなさそうな顔をして考え込む。どうかしたの、とエディスが問いかけると。


「ガフィンの組織が修道院と連絡を取るとなれば、恐らくセローフから船を出しているはずだわ。ちょっと面白くないけど、ここは大公に言って、情報を共有しておくしかないかなって」


「あぁ、なるほど。セローフから船が出たら教えてもらうのね」


「そういうこと。借りを作ることになるけれど、ま、仕方ないわ。前回のネーベル軍のことがあるし、このくらいなら引き受けてくれるでしょう」


 ネミリーはそう言って、午後は手紙を書くことにした。


 エディスはやることがないので、寝ることにした。

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