第4話 調査の舞台はハルメリカへ
エルフィリーナとの話が終わった後、ネミリーは引き続き何人かの修道女とも話をした。
修道院の船がネーベル船団に沈められた件では総勢200人ほどが亡くなったというから、身内や知り合いを失った者はエルフィリーナ以外にもかなりいる。
そうした者達とも話をしたが、総じて皆、ガフィンの組織が生き返らせてくれることを期待しているようだ。
(そういえば、セシエルがそんなことも言っていたかなぁ……)
ネミリーはガフィン本人とは面識がないので、エディスやセシエルのような警戒感は持っていない。もちろん、2人が嫌う相手であるから仲良くするつもりはないが、記憶に刻まれるほどのものではない。
「どのように生き返るのか聞いていますか?」
好奇心もあるので尋ねてみるとそれは分からない、という回答が一様に返ってくる。
(分からないけど、期待しているのかぁ)
そこは呆れるが、ガフィン・クルティードレはネーベルとビアニーで司教の資格を有しているらしい。それだけ信仰心に篤い人物であるから、信用できるということのようだ。
(それも怪しいものだけど……)
司教としての評価というものは、中々難しい。
仮にある司教がハルメリカで司教として認めてくれと来た場合、それを認めるのはネミリーになる。しかし、彼女は神がどうこうというのはさっぱり分からないから、余程の変人でない限りは「とりあえずどうぞ」ということになるだろう。セローフなら支払う金で決まるかもしれない。
そんなことを考えながら応接室を出て待合室に戻った。
エディスは待ちくたびれたのかウトウトと眠っていた。
「エディス、終わったわよ」
「……ハッ!」
肩を揺すると、声と同様にハッとした表情で辺りをキョロキョロと見渡す。完全に夢の世界に入っていたようだ。
「あ、ネミリー」
顔を見合わせ、ようやく状況を思い出したようである。
「とりあえず外に出よっか」
エディスに言うと、多分文句が出て来ると思ったので、外に出るよう促す。
外に出て、市場へと向かう途中で修道院の中のことを話す。
「蘇生がどうこうって言っていたけど、聞き覚えある?」
「蘇生? 蘇生の話はアンフィエルでは聞かなかったなぁ……」
「セシエルが言っていなかったっけ?」
「言っていたかもしれないけど、忘れた」
いかにもエディスらしい返答が返ってきた。ネミリーは溜息をつく。
「……となると、この話は一旦棚上げね。ハフィールさんに説明するか、あるいはしばらく置いておくかはセシエルから蘇生云々に関する話を聞いてからになるわ」
いくら恋人とはいえ死んだ人間を蘇生させることを期待している、というのは印象が良くない。
そんなことを話したら、ハフィールのエルフィリーナに対する評価は下がるだろう。
エディスは姉と喧嘩をしたいわけではないので、わざわざ姉の評価を下げることはない。
ただ、セシエルの話を聞いて、本当にまずいのであれば教えた方が良いかもしれない。修道院に入れたとはいえ、ミアーノ侯爵家の娘がまずいことをしているのは望ましくないからだ。
「……ただ、セシエルがいつ戻ってくるかは分からないし、一回、ハルメリカで調べてみようか」
「うん、そうね」
ネミリーは話を聞いていたものの、ガフィンとその組織について全く関心がなかった。
ただ、セシエルとエディスが嫌がり、エディスの姉やエルリザの修道院と関わり合いがあるとなると、念のため押さえておいて良さそうである。
ハルメリカからアッフェルに行っているセイハン・トレンシュを始めとする官僚や。イサリアにいるルーティス家の親戚に聞いておいた方が良いと思った。
それにセシエルが戻ってくる場合、恐らくハルメリカに寄るはずだから、ハルメリカにいた方が良いだろう。
「じゃ、エルリザで何か動きがあったら、フィネに伝えてもらうよう話をしておいた方が良いんじゃない?」
エディスが友人のフィネーラ・リアビィを伝令役にするよう提案する。
「あの人はねぇ……」
ネミリーは渋い顔をする。
数か月前、ネーベル船団がハルメリカを襲撃してきた際、フィネーラはエルリザ海軍を指揮していたのであるが、真っすぐ突き進んで一部を逃がす羽目になった。
結果として大きな被害は出なかったものの、ツィア・フェレナーデによればエディスが一瞬危ない目に遭ったという話である。
嫌いというわけではないが、信用できるのか、という思いはある。
「お兄様と同じで腕っぷしで考えるタイプだからアテにならない気はするけど」
とはいえ、他に誰もいないのも事実だ。
何かあったらハルメリカまで連絡してもらうようフィネーラに頼むことにした。
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