第11話 ツィアのこれから
ユーノを出たところで、ツィアは3人の方を向いた。
「ファーミル。悪いけれど、しばらくの間、ユーノの状況を調査してくれないか」
「……と申しますと?」
「これ以上の動きはないと思うが、ひょっとしたら仲間がいるかもしれない。場合によってはグルケレス周辺で何か動きがあるかもしれない。それをシルフィちゃん達と一緒に調べてほしい」
シルフィがびっくりする。
「ということは、ツィアさんはどうするの?」
「まずスラーンにいるフロールに伝える必要があるから、伝えに行く」
「あぁ、それは立ち会いたくないわね……」
シルフィは神妙な面持ちになった。
フロールはサルキアに頼り切りとはいかないまでも、彼あってこそと思っているところがある。
サルキアが既にこの世にいないと伝えるのは辛い。
「幸いにしてグルケレスの命令書はあるし、仇は討ったことも伝えて、その後をどうするかは本人に任せるしかないかな」
「……そうね」
「それが終わった後は、ハルメリカに行って噂の出どころを調査したい」
ファーミルがユーノまでやってきたということは、かなりの信ぴょう性のある噂なのだろう。
しかし、ビアニーが関与しているとまで言ってくるのはかなりの悪意を感じる。
ハルメリカは中立的なところであると思っていた。
市長代理のネミリー・ルーティスがビアニーに対してどう思っているかは定かではないが、ジオリスやエリアーヌとは仲が良いはずで、彼女がそうした噂の出どころになるとは考えづらい。
となると、何かしらビアニーに敵対的な者が動いている可能性がある。それはビアニー王子として捨て置くことはできない。
「更にそれが終わったら、アンフィエルに戻ってガフィンの様子も調べる必要があるだろうな」
「そうだね。元々上司だったんだから、ガツンと言わないと」
「……死者の蘇生を研究することまで否定するつもりはないが、アロエタにあったような研究は断じて許せないし、そこはしっかり止めるつもりだ」
「あ、それであれば、ハルメリカ市長代理にイサリアへの手紙をお願いしてよろしいでしょうか?」
ファーミルはそう言って、すぐにペンとインクを取り出して、鞄から紙を取り出した。
「メイティア・ソーンが絡んでいるとなると、のっぴきならない事態に発展する可能性があります。もちろん、イサリア魔術学院にどこまでできるかと言われるとはっきり分かりませんが、何もしないよりは手を打たないと」
「分かった。預けておくよ」
ファーミルから手紙を受け取ると、ツィアは無言のエマーレイにも話しかける。
「頼んだぞ」
「……」
エマーレイが少し離れたところを指さした。何か話したいことがあるらしい。
「何々、兄ちゃん、どうしたの?」
と、関心を見せるシルフィには「おまえは関係ない」と手を広げて制止した。
あくまで二人きりで話をしたいようだ。
ツィアは指示された場所にエマーレイとともに移動する。エマーレイは頻繁に妹の様子を伺っている。
「……あいつは聞き耳もたいしたものだからな」
「中々便利な子だよ。で、聞きたいことというのは?」
「……オルセナ王女をどうするつもりだ?」
ツィアは目を見開いた。
まさかエマーレイからオルセナ王女のことを聞かれるとは思わなかったからだ。
「……シルフィちゃんは必死に否定していたけど、兄の君が認めてしまっていいのかい?」
「殿下の中では限りなくクロだろ?」
「……まあ、否定はしない」
ツィアは再度、シルフィがいるかどうか確認する。不満そうな顔をして座っているが、話の内容というより置いてけぼりにされたのが不満なのだろう。
「フロールはサルキアの忠実な配下だ。サルキアがいなくなった今、彼が主君の許婚を守るためトレディアを離れて王女につくこともありうる。つまり、彼女は強力な戦力を手にすることになり、殿下にとってはより危険になった」
「……エマーレイ、もうちょっと別の言葉を勉強した方が良いんじゃないか?」
中々の推測である。方言しか話せなくていつも無言でいるのがもったいない。仮に他の言葉を話せられれば、見た目通りの豪快な剣術に、意外な冴えもある人物として評価されるだろう。
「まあ、ビアニーから見た場合のエディス・ミアーノの危険性が更に上がったことは間違いないし、サルキア公子も1人だと寂しいだろうし、彼のそばに送った方が良いのではないか、という感があるのは事実だ。それでおまえはどうするんだ?」
「俺個人としてはどうでもいいのだが、シルヴィアさんからあんたがエディス・ミアーノを本気で殺すつもりなら止めるように言われている」
ツィアはもう一度目を見開いた。
「それも意外だな。シルヴィアがそこまでエディス・ミアーノに肩入れする理由も思い浮かばないんだが」
「あの人は殿下を憎からず思っている。殿下がうっかりした行為で、ライバルを殺したみたいなことになってほしくないし、それによって殿下の許婚や多くの関係者に恨まれるようなことも真っ平ごめんということだ」
「なるほど。確かにそうだ」
元々はシルヴィアが誕生時期から「エディス・ミアーノかも」と言い出したことがスタートである。大陸三大美少女と呼ばれている者同士の親近感のようなものはあるはずで、彼女にとっては寝覚めの悪い話だろう。
「……俺としては、エマーレイにはシルフィちゃんともども、まず今のことに専念してほしい。だから今年中は何もしないということは約束しよう」
今年は残り2ヶ月を切っている。
しかし、ユーノでの調査は1ヶ月程度あれば大丈夫だろう。そこから1か月あればエルリザまで来られるはずである。
「ビアニー王子の名誉にかけて、その間に動くようなセコイことはしないと約束する」
「……分かった。あと、念のため、シルヴィアさんには報告を出すが、構わないか?」
「構わないよ」
「……話は以上」
「了解。じゃ、あとはよろしく」
エマーレイは戻っていった。
ツィアは残ったシルフィとファーミルに手を振って、北の方へと向かおうとする。
途中、ふと振り返った。
「あいつ、いつも無言でついてきて辛くないのかなぁと思っていたけど、シルヴィアのためだったのか」
エマーレイの行動原理が分かって、心のもやもやが一つ晴れた。
しかし、今後、エディス・ミアーノをどうするかという別の悩みが湧いてくることも事実だった。
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