第3話 魔道士の協力先

 2人は建物の応接室に入った。


 応接室とは言っても、椅子と机があるだけで装飾品などは全くないが。


「2か月ほど前に、殿下に大公から相談事があるということで使いが来たんですよ。おっと、そのあたりも説明しないといけませんか」


 フロールがトレディアの有力候補関係の勢力図を説明する。


 まず、大公リッスィの息子であるグラッフェとキールがそれぞれ激しく対抗している。


 兄であるグラッフェの長男であるサルキアは、フロールらとともに父親に反発して北部で勢力圏を有している。


 宙に浮いた形となった大公リッスィは成り行きに任せるつもりであるが、孫のサルキアのことは評価している。また、大公の部下は自分達の保身もあるので大公に何とかしてもらいたい。そのため、サルキアに恩を売ろうとする動きがある。


「情報交換などで行き来することが多かったので、今回もそうだと思ったのですが、いつもは20日くらいで戻ってくるところを今回は中々戻ってこなくて、念のため別の者も行かせているのですが……」


「なるほどね」


「ひょっとしたら、グラッフェの勢力圏で何かやってしまって軟禁されているのではないかと恐れています。ですので、武器の売買についてサルキア殿下の決済を仰ぐことができず」


 フロールの言葉にツィアは頷いた。


「分かった。武器の売買については、俺が推薦状を書く」


 ツィアは右の中指にはめた指輪を外した。装飾ではなく、印鑑となるタイプの指輪である。


 そのうえでフリューリンクに余っている武器を安価に譲渡する旨の書面を記して、そこに指輪の印を押す。


「少し遠回りになるだろうが、船でアッフェルに行ってもらって、弟のジオリスかピレント女王に渡せば悪いようにはならないはずだ」


「あ、ありがとうございます」


「……先程も言ったように、ユーノの情勢は関係がないが、オルセナから歓迎されざる人物がユーノに行っていることは間違いない。俺はそいつを探しに行くが、もし、サルキア殿下の情報があったら伝えるよ」


「よ、よろしくお願いします」


 フロールとの交渉を速やかに終えた後、ツィアはスラーンの売店などで食糧などを買い込み、そのまま南に向かうことにした。



 道すがら、シルフィが不思議そうに問いかける。


「あんなにあっさりと武器を渡して良かったの?」


 ツィアはこともなげに答えた。


「フロール・クライツロインフィローラはゼルピナの連中にも勝った勇将だという。恩を売っておいて損はない」


 フロールはサルキアとともにゼルピナ勢に勝利している。ゼルピナにはハルメリカで共に戦ったネリアムとシェレークといったとんでもない面々がおり、その2人に勝ったというのは無視できない。


「サルキア殿下はどうなっているんだろう? 父親に捕まったのかな?」


「……証拠はないけど、俺は大公の方が怪しいと思う」


「何で?」


「グラッフェとキールはそれぞれ自前の勢力を有している。2人がオルセナに借りを作る形で魔道士の協力を受ける可能性はゼロではないが、あまり高くない」


 現状のトレディア大公は、一応オルセナの宗主権を認めてはいるが事実上独立した存在だ。


 しかし、オルセナの助力を受けてライバルを打倒した場合、今までよりもオルセナに頭が上がらなくなる。魔道士のやり口は誰が見ても非道極まりないもので、発覚すれば間違いなく評判を落とす。


 自分達だけで勝てるだろう状況で、リスクの高い形で助力を受けたいとは思わないだろう。


 だから、父を差し置いて争っているドラ息子2人が手を出す可能性は低い。



「純粋に戦力を欲しているのは微妙な立場にある大公サイドだ。多少オルセナに借りを受けたとしても、目の前の2人を倒したい」


「……そのままだと逆転できないけど、イカサマしても勝ちたいってわけね」


「一年前くらいからやりとりが頻繁になっている。ということは、大公が必要とするものが変わってきたわけだ。以前は孫を必要としていたのだろうが、今、その孫が一番邪魔な存在になった」


「うん、どういうこと?」


「大公サイドが反撃に出たとする。となると、俺達がアロエタで見たような連中が出て来るかもしれない」


 シルフィもエマーレイも顔をしかめた。


「うぇぇ、最悪だわ」


「そうだ。そういうとんでもないものを見た場合に、グラッフェはともかくキールが考えを変える可能性がある。サルキアは大陸でも屈指の魔道に詳しい男だ。2人で組んで、この状況を打開しよう。詳しく調べて、大公がトレディア大公たる資格を失ったと知らしめようと」


 グラッフェもキールも「自分が勝てる」と思っているから、独自路線を歩んでいる。勝てないとなると話が変わってくる。グラッフェとサルキアの関係は父子と近いが故に最悪らしいが、キールは甥にそこまで憎しみはないだろう。この両者がくっついて、サルキアが魔道の知識を駆使して、調査をする可能性がある。


「そうか、サルキア殿下ならツィアさんみたいにビビッと気づいて、パパッと解決する可能性があるのね」


「そうなったら困るから、色々明るみに出る前に何かの用件にかこつけてサルキアを呼び出し、味方だと思ってホイホイやってきたところをバッサリとやってしまおう、と考える」


「それはまずいじゃん。急がないと」


「急いでいるよ。フロールとの話も三分でまとめたしね」


「な、なるほど。あたしが先に行って偵察してきていい?」


「構わないんだけど、大公サイドで誰が主導しているか分からない。シルフィちゃんが1人で行って手あたり次第に調べるのはどうかなと思う部分もある」


「むう、そうか……」


 オルセナは貧困国なので水上宮殿を維持するのにやっとだから、そこに多くの者が集まる。


 ユーノはそこまで酷くはないから、例えば監禁などもどこで起きているか分からない。


「今言った俺の考えが全部外れていて、グラッフェが軟禁している可能性もある。それも含めて、3人で行動した方が賢いと思う」


「わ、分かった」


 シルフィも気圧されたように頷いた。ここでは単独行動をとれない、と判断したようだ。

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