第11話 レイフィスの調査・2
その後もレイフィスは資料を読み続けていたが、学術や技術の提供などはないようであった。
あったとすれば、最初に来た魔道士達だったのだろう。
一通り読み終えると、レイフィスは別の資料を探しに行った。
「トレディアとの資料か……」
次の目的地予定のトレディアの資料である。
「あそこは内戦を繰り返していると聞いているが……」
呟きながら資料を開く。
「何だ? オルセナに来た魔道士の1人がユーノに向かったのか……」
確かに、金貨2000枚と引き換えに奴隷50人を販売し、しかも魔道士の1人が半年間の約束でトレディア公都ユーノへと向かったらしい。
(ということは、トレディアにアンフィエルから来た魔道士が1人生き残っているわけ? うげー、最悪だわ)
内戦中であるから、とんでもない戦力が欲しいということは理解できるが、トレディアの争いは身内の争いと聞いている。その争いに非人道的な魔道士の力を借りるなど、信じられない。
「一番たいしたことがない奴が送り込まれているようだな」
ご丁寧に派遣した魔道士の履歴書も挟んであった。レイフィスの言う通り、こちらは成績も能力も特筆すべきものはないようだ。とはいえ、危険な研究に携わっていた人物である。ロクでもないことをしている可能性はある。
(ベルティも内戦中だけど、そっちは大丈夫よね……?)
自分達のいたベルティでも、6人の王位継承者による内戦が始まっている。
現在は膠着状態が続いているが、打開策に怪しい魔道士の力を借りることはありえなくもない。
(あ、ちょっと待った。次にトレディアに行くのだから……)
たいしたことのない履歴書だが、中身を覚えておく必要がある。
いや、レイフィスが読み終わった後、この履歴書だけ盗むことを決断した。
それ以外にも公都ユーノとセシリームの往来は結構あるようだ。
この1年だけでも8回。相当な緊密ぶりである。
「これを主導していたのは殿下なのだろうが……」
レイフィスがつぶやく。
殿下というのは数か月前にサンファネス近郊で戦死したブレイアン・ロークリッド・カナリスだ。
確かにこうした話を展開していたのは、有能だという噂もあったブレイアンなのだろう。オルセナ復興のために良からぬ連中や技術に手を出そうとし、それをトレディア、あるいは他の国にも広めようとしていたのかもしれない。
(ツィアさん、やり過ぎと思ったけど、あいつを殺したのは正解だったのかもしれないわね)
先ほどまでレイフィスと対峙していたレイシェは、国王を除けばセシリームで一番上にいるのだろうが、とりたてて優秀な人物とは見えない。
ブレイアンが死んだことで頓挫した計画が色々あるだろう。
(政敵っぽいレイフィスを呼ばざるを得なくなったみたいだしね)
資金難の解決の目途がなくなり、救援を求めるしかなかったのだろう。当然、その見返りとしてレイフィスにこうした調査はもちろん、セシリームでの権益も与えるはずだ。
(こいつはまだマシな感じに見えるけど……)
レイフィスのおかげで調べたかったことを調べられた幸運もあるし、ブレイアン同様に有能な人物のように見える。
こいつがセシリームの中心人物になるのは悪くないのではないか、シルフィは一瞬そう思ったが、すぐに翻意することになる。
「レイフィス様、こちらの資料を」
衛兵の1人が自分の読んでいた資料を持ってきた。レイフィスがそれに目を通す。
「エフィーリア王女が生存している可能性?」
「と、この資料には書かれてあります」
(ふむふむ、王女の生存は確実と……。これはツィアさんに一応言うしかないかなぁ……どうしようかな)
シルフィが悩んでいる間、衛兵の声は活気づいている。どうやら、王女の生存に希望をもっているようだ。
「事実ならば、陛下亡き後にエフィーリア様をお迎えすれば」
「馬鹿を言うな」
「……はっ?」
「これを見るとレルーヴに出たとあるが、その後どこに行ったのかも知れんのだぞ。他国の軽薄な思想に汚染された者が王になってみろ。オルセナ千年の歴史に大いなる禍根を残す」
「な、なるほど……」
「レルーヴは近年、ビアニーとも近い関係だしな。エフィーリアがビアニーにいた可能性もある。そんな可能性のある者を王にできるか。必ず殺さなければならない」
レイフィスの目に怪しい光が浮かぶ。シルフィはうんざりとなった。
(なるほどぉ……ツィアさんの言うように、ビアニーがビアニーなら、オルセナもオルセナだったわ)
「ただ、そうなると陛下亡き後、レイシェが国王となるのでは?」
ツィアが出発前に言っていた。国王家を除けば、ホールワープ公がオルセナのトップだと。
つまり、国王一家が全滅すれば、ホールワープ家の当主であるレイシェが一応王となるようだが、それはレイフィスには受け入れがたいことのようだ。
「……エフィーリアが生きているというのであれば殺してしまい、それをレイシェに押し付けてまとめて消すのが良いだろうな」
「では、諜報隊を出しますか?」
「そうだな。メスターラに戻ったらそう手配しよう」
シルフィは思わず肩をすくめた。
(あかんわ。こいつと比較したら、あのダメっぽいレイシェの方がマシだ……)
ブレイアンもそうだが、オルセナでは有能な者は人間性を失うらしい。
シルフィは自分の見る目がなかったことを素直に認めた。
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