第6話 コスタシュとの取引
セシリーム南部の根拠地から水上宮殿までは直線距離にしてほぼ3キロである。
1時間も経たないうちにシルフィは水上宮殿の中に入り込んでいた。
水上宮殿は一階建てであるが、地下は存在しているらしい。
(川の中にある地下牢だから、湿気も高いし相当嫌なところよねぇ)
と思いつつ、地下牢の場所を探す。
シルフィの場合、誰からも姿は見えないはずが、誰かに聞くわけにはいかないので、探さなければならないという難点がある。ただ、色々なところに忍び込んでいるので地下への入り口がどこにあるかある程度の知識がある。
(国王の部屋とか厨房とかの重要施設の近くに牢獄への入り口があるはずないし、基本的には入り口のそばとか外れたところよね)
勘が的中し、何もない外れた奥に階段があった。特に行き来は頻繁でもないようで、警戒しながら降りていくと見張りすらいない。
(マジか。罠かしら?)
鍵自体は入り口近くに置いてある。誰もいないのであれば、
牢はかなりの個数があるようだが、使われているのは三つのようだ。
それぞれを見ると、ひとりだけかなり身なりが良い。
(コスタシュ・フィライギスはラルスの伯爵家の次男だから、こいつかしらね)
シルフィは中に入ることなく小声で話しかける。
「コスタシュ・フィライギス?」
中にいる、これといった特徴のない少年が反応した。
「誰だ?」
「静かに」
「……救出か?」
頷いて、コスタシュも声を極端に落とした。
「……とも言えないわね」
「……どういうことだ?」
「あんた、エディス姉ちゃんの知り合いでしょ?」
「エディスを知っているのか?」
「一応ね。あんたがエディス姉ちゃんのことをどこまで知っているかによって、あたしは助けない方が良いんじゃないかとも思っているの」
「……どういうことだよ?」
コスタシュは助けと期待しているようで、シルフィのまどろっこしい言い方に腹を立てたようだ。
とはいえ、文句を言いたいのはシルフィも同じである。
「あんたもオルセナとビアニーの因縁は知っているでしょ? あたしのスポンサーは、ビアニー王家の者なのよ」
「……ジオリスか?」
「その兄ちゃんね」
「……」
「あんたがもし余計なことを知っているのなら、尋問相手がここの連中からビアニー王子に変わるし、エディス姉ちゃんに危機が及ぶかもしれないわけ」
「……ビアニーにとって、オルセナ王女の生存は危機というわけか」
コスタシュの言葉は、つまりクロであることを意味する。
このままツィアに会わせるわけにはいかない。
「あんた達3人を助けても良いけど、条件がある。セシリーム南部に戻らないこと。オルセナなんかにいても仕方ないし、とっとと故郷に戻るなら、助けても良い。嫌なら、このまま処刑させた方が良いかなと思っている」
コスタシュは即座に答えた。
「……分かった。ラルスに帰る」
「じゃ、何とかするわ。ちょっと待ってちょうだい」
シルフィは一度上に上がった。
見張りもいないので、鍵を使えば連れ出すのは簡単だ。後は水上宮殿から外に出る手段であるが、建物から外へは簡単に出られそうだ。問題は川をどう渡るかだ。
(ま、見張りを眠らせれば何とかなるか……)
見張りに当たっているものは僅か2人のようだ。
国王もいる宮殿を見張る人数としてはあまりにも少ない。これも罠ではないかと思えるほどだが、隠れられそうな場所をチェックしても誰もいない。単純に人員不足のようだ。
シルフィは牢獄に戻り、プランを説明する。
「見張りは3人だけど、飲み物に睡眠薬でも混ぜておくよ。夜になったら鍵を開けるから、船で逃げるって感じね。あたしは運命共同体になりたくないから別個に逃げるから、頑張って逃げてちょうだい」
「分かった」
「川を渡り終えたら、ラルスに逃げてもらうよ。もし、セシリームで再び見つけたら、あたしが殺すから」
「……怖いな。そんなにエディスのことを話されるのが嫌なのか」
「嫌に決まっているでしょ。見ず知らずのあんたののせいで、あたしの知り合い同士が殺し合いするなんて真っ平ごめんだし」
「……分かった」
「それにしても、ここの連中は監視もしないなんて何を考えているのかしら?」
「餓死するまで放置すると言っていた」
「ゲゲッ」
「食事や水ももったいないって、な」
「うわ、ここの連中だとありそう」
南セシリームはギリギリ最低限の物資がありそうだが、北は元々奴隷販売で成り立っていたようなところで、それが不自由になりつつある。物資も底をつきているのだろう。捕虜に与える食事が勿体ないというのもありえないではない。
見張りが少ないのも、資金も物資もないから雇えないというのがあるのだろう。
シルフィは外に出て、しばらく横になる。
コスタシュと約束した夜を待つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます