第4話 南セシリームの支配者

 5月、ツィア一行はベルティ西部から再びオルセナ領に入った。


 途中、盗賊達を何度か追い払い、王都セシリームを目指す。



 前年、ツィアはオルセナ王家に反抗的なコレイド族の力も借りて、オルセナ王子ブレイアンを暗殺することに成功した。


 そのため、セシリームの政府は急激に力を弱めているという。


 セシリーム中央を流れるフェマリン川の南部からして、既に盗賊団の支配下になっているほどの求心力の無さだ。


「まあ、元々支配しているというより、他に誰もいないからオルセナの権威を認めていたって感じだもんね。盗賊団が支配する気になったら、それにも勝てないと……情けないなぁ。こんなところがビアニーの脅威になるの?」


 シルフィは「オルセナたいしたことない」論を展開するが、ツィアは無視して自分の考えを口にした。


「……ひとまず南部の盗賊達とやらのところに行ってみるか」


「……そうね。盗賊達というから、ちょっと不安だけど」


 何だかんだでツィアもエマーレイも強いので、多少の喧嘩は平気である。だからシルフィは呑気に答えたが、翌日には自分があらかじめ行かなかったことを後悔する羽目になる。



 翌日、セシリーム南部に入ると、見張りらしい女に「何者か?」と問いかけられた。


「オルセナ政府の者ではない」


「そうそう、フンデから来たよ。ね、兄ちゃん」


 シルフィとエマーレイがフンデ地方の奇妙な言葉で話を始めたことで、信用してもらえた。


 そのまま3人は責任者らしいところまで連れて行かれることになる。向かう途中、盗賊団の幹部らしい者と何人かすれ違うが。


「幹部が女ばっかりだね」


「女子の盗賊団の方が、活動しやすいのかもしれないな。資金を集めれば大っぴらな活動もしやすいし」


「なるほどぉ」


 と、会話を交わしているうちに目的地についたようだ。


「ここだ」


 連れていかれた建物は、特に立派な建物というわけではない。


 昔からある建物の一つを、そのまま使っているのだろう。


 中は部屋もない集会所のようなところだった。その中央に190センチはあろうかという大柄な女と、灰色の髪のすらっとした女が立っていた。


「あんた達が盗賊団の指導者か?」


 ツィアの問いかけに、大柄な女が豪快に笑う。


「ハハハハハ、確かにそうだ。しかし、我々はただの盗賊団ではない。以前は盗賊活動を行っていたが、ここ、南セシリームにおいてそうした活動を控え、自給自足の生活ができるようにしている」


「ほう……。一言で自給自足と言っても中々大変だと思うが、たいしたものだな。しかし、元々盗賊団だったのに、何故にいきなり宗旨替えしたんだ?」


「それは我々がオルセナ女王からの信託を受けたからだ」


 指導者らしい大女・ジーナ・フロービリアの言葉に、ツィアの視線が険しくなり。


(しまったー! エディス姉ちゃんは、こいつらと行動していたんだぁ!)


 シルフィは内心で絶望の悲鳴をあげる。


 何ら彼の理由でエディスがオルセナの王女だと知り、女王になりうる存在だと認識している。だから盗賊団の旗印を下ろして、女王の軍に変革しようとしている。


 それ自体は素晴らしいことなのだろう。


 しかし、オルセナ王女をつけ狙うツィアという狼の前で話すのは最悪だ。冷笑を浮かべながら次の質問を投げかけた。


「オルセナ女王がお前達の指導者なのか? 盗賊団をそう変えるとなると、さぞや素晴らしい人なんだろうな」


「もちろんだ。女王……」


 ジーナが高らかに宣言しようとした。


 シルフィは「終わった、全て終わった」と諦めたが。


「……あれ、何て名前だったっけ?」


 ジーナが隣にいるエルクァーテ・パレントールに尋ねた。ツィアは思わず前方につんのめる。


「……そういえば、お名前は伺っていなかったね」


 エルクァーテが冷静に答えた。


「茶色い髪と瞳の美人なのだが……」


 更に続けたところで、ジーナが「違うだろ」と言おうとする。


「女王陛下はく……ギエェェェ!」


「おや、どうしたんだ? ジーナ?」


 エルクァーテがすっとぼけた様子で尋ねた。よく見ると、ジーナの右足を強く踏みにじりながら平然とした様子で聞いている。


 どうやら、ジーナは素で知らなかったらしいが、エルクァーテは知っていたようだ。


 ただ、空気と雰囲気で明かすとまずいと判断して、とっさに誤魔化したのだろう。


 とはいえ、ジーナに対するエルクァーテの行動は見え見えである。ツィアがどう思うだろうかと様子をみるが、問題にするつもりはないようだ。


(にしても、まずいなぁ。こんな面々を従えていると分かれば、より危険な相手認定されそう)


 セシリームの中央政府が弱いのが尚のこと問題だ。


 この面々にエディスが合流したなら、本当に即座にセシリームを支配できるかもしれない。その後はツィアが危惧していたように、ネミリーやセシエルが協力すれば一角の組織になる可能性がある。



 しかも事態は更に悪化した。


 突然、汗まみれの女が建物に入ってくる。


「ジーナ、エルクァーテ! 大変だ! 北側の偵察にあたっていた連中がセシリームの連中に捕まってしまった!」


「何だって!?」


 ジーナが立ち上がる。


「北側の偵察隊ということは、コスタシュ・フィライギスもかい!?」

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