第13話 ハルメリカの猪とネーベルの魚
その頃、ハルメリカ北の市街地では、より一方的な展開になっていた。
ハルメリカ海軍に追い立てられるように上陸したネーベル海軍であったが。
「ネーベルの魚が陸に上がったぞ!」
「まとめて刺身にしてやれ!」
ネリアムとシェレークが指揮するゼルピナ兵が嬉々として襲撃してきた。
もっとも、ネリアムとシェレークの指揮する部隊は1000人。
挟撃されているとはいえ、ネーベル軍は5千前後の数がいる。
「突破しろ! 切り抜けろ!」
ネリアム達を倒せば、後ろにハルメリカの市街地が控えている。
そう考えて、ネーベル海軍は一斉に陸上を前進していこうとする。
数の差を考えれば、押し切れるはず。
ネーベルの指揮官がそう考えたこと自体は、決して間違っていないのだが……
「ハッハッハ! 魚にしてはやるではないか!」
シェレークが長槍でまとめて五人ほどを振り回せば。
「どうした! どうした!? それでも海軍の兵士なのか? タコやイカの方がまだ打つ手があるのではないか!?」
ネリアムも持ち前の怪力で相手の武器をどんどん抱えて、そのまま海中へと放り投げる。
「しかしタコは8本、イカは10本手があるのだったな! あいつらの方が打つ手が多くて当たり前か。ワハハハ!」
2人が豪胆に相手を倒していけば、当然配下達も乗ってくる。
そうでなくても、馬を忘れて歌っているような軍隊である。気分が上がってくればもう止まらない。
ネーベル軍は前線が押されまくるにつれてどんどん意気が下がっていく。
「おぉ、おまえが指揮官か!?」
ネリアムがネーベルの紋章を刻んだ鎧を身に着けた背の低い男に声をかけた。
ネーベル王国に限らず、国家の紋章を刻んだ鎧をつけているということは、大体が地位の高い人物だ。
もっとも、近くにいたシェレークが違う意味で驚いている。
「ネリアム、おまえ、ネーベル王国の紋章を知っていたのか?」
俺は知らないのだが、シェレークがそう言いたして尋ねた。
「もちろんだ! 強い奴と戦いたいからな!」
「そうか! 確かにそうだな!」
地位が高い人物ということは、本人が強いか、あるいは強力な護衛がいることが多い。
強い奴と戦うという点では、王族ないし高い身分の紋章を覚えておくことは有意義だ。
相手は「とんでもない奴に見つかった」と及び腰になるが。
「どうした? せっかくハルメリカまでやってきていながら、玄関で尻込みすることもなかろう!? ネーベル軍人の誇りというものを見せてもらおう!」
そう言って、ネリアムはズカズカと前進する。
相手は周りの兵士に「あいつを何とかしろ!」と呼びかけるが、「どうにもなりません!」という声が返ってきた。
無理もない、ネリアム1人で100人近い兵を海中に放り投げている。
攻撃しても武器を組み止められてそのまま放り投げられるし、逃げようとしたら長い棒でそのまま叩き落される。100人が千人でも倒されそうな勢いだ。
「おい、ネリアム」
シェレークが唐突に声をかけた。
「おまえ、さっき刺身にしてやると言っていたが、全員叩きにしたり塩漬けにしたりしているだけではないか。相手の指揮官くらいは刺身にしても良かろう」
「むっ? まあ、確かに……」
ネリアムは左手で剣を抜いた。非常な長剣、刺身というより一刀両断、下ろしに裁いてしまいそうな代物だ。
それを上段に構えて、ネリアムは大音声で叫ぶ。
「1人くらいは刺身にしないと言行不一致ということになるな。さあ、来い!」
「ひぃぃぃ!」
やる気十分のネリアムに対して、相手は反比例して意気消沈している。
「参った! 降参だ! 命だけは助けてくれ!」
あっさりと降参の道を選んだ。
つまらんと吐き捨てるネリアムの眼前で、ゼルピナ兵が指揮官を縄で縛っている。
「……しかし、どうして我々がここに来ることを理解していたのだ」
「どうして?」
「港を封鎖して、海中に鎖を用意しているわ、海軍が西から攻撃してくるわ。我々が来るということが見抜かれていたということなのだろう?」
「当然だ。ハルメリカ市長を舐めてもらっては困る。そうした動きなどは事前に調べているのだからな」
「ネリアム、相手の動きを未然に調べているのは市長ではなく、市長代理の方ではないか?」
シェレークの冷静なツッコミは、海上からの声にかき消された。
「ネリアムさん!」
「おぉ、リアビィ侯子ではないか!」
ハルメリカ海軍とともにやってきたスイール船の甲板にフィネーラ・リアビィの姿があった。
「援軍かたじけなかった! おかげで助かったぞ!」
「どういたしまして! この戦いが終わったら、久々に手合わせをお願いします!」
フィネーラもエルリザでは屈指の体力馬鹿である。軍としてはともかく、個人としては強いゼルピナの面々を見ると、相手をしたくてたまらないらしい。
「いいとも! いい加減ゼルピナの同じ相手とばかりやるのは飽きが来ていたところだ!」
戦闘そっちのけで会話をしているが、指揮官も降伏したことで部隊全体が完全に戦意を喪失していた。
戦闘開始から2時間足らず、ネリアムとシェレークはこの方面の敵を完全に制圧した。
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