第6話 ハルメリカの防衛方針・4

 敵船が近づいてきたという報告を受けて、ルーティス邸が慌ただしくなる。


 ネミリーが兵力を揃えて、セシエルがそれに対して指示を出すことになる。


「沖合の鎖は突破できないはずだが、万一ということがある。エディスとシルフィちゃんは灯台から様子を見て、危ない方の支援に行ってほしい」


「分かったわ」、「了解です!」


「南は遠回りになるから、大半は北に向かうと思います。ですので、ネリアムさんとシェレークさん率いるゼルピナ兵は北側の砂地を防衛してください」


 ハルメリカ市長と、南部ゼルピナの次期伯爵に対して指示を出すのはやや異様ではある。だから、セシエルはやや弱気に指示を出すが、受ける2人は全く表情を変えないどころか。



「シェレークよ、どちらが大勢の敵を倒すか勝負しようではないか」


 ネリアムがそう言って右手の力こぶをアピールすると、シェレークもニヤッと笑った。


「おぉ、面白そうではないか。受けて立つぞ」


「いやいや、我々もやりますよ」


 更には血気盛んな部下達も入ってきて、最前線でどれだけ敵を倒せるかを競おうとしている。


 貴方達は指揮官なんですから、自重してください。口はそう言いたそうだが、やる気に満ち満ちている本人達を前に、セシエルは結局黙っている。


「ツィアさんとエマーレイは50人ほどを率いて、念のために南側を防衛してほしい。エディスとシルフィちゃんは、南側が攻撃されないようなら指示を出してもらえるかな?」


 シルフィが分かりましたと応じるが、ネミリーが疑問をさしはさむ。


「客人に部隊を任せてしまって大丈夫かしら?」


 客人に、と取り繕ってはいるが、「知らない人間だけど大丈夫なの?」というところのようだ。


「そこは状況を見て、僕とフィネがサポートするから大丈夫だよ」


 南側に上陸するためには、突き出したハルメリカ市街地の半島を半周する必要があり、かなり時間がかかる。沖合から中に入るのを鎖で封じられ、更にハルメリカ海軍に追い立てられる状況で、そこまで余裕のある船はそこまでないだろう。セシエルが再度説明をした。


「ま、それもそうか……」


 南側に貴重な戦力を置いておく必要はない。むしろ微妙な存在だからこそ、任せるのだと言われればネミリーも反論できない。



「つまり、ツィアとエマーレイさんよりは私の方が頼りになるということね」


 一応頼りになる認定を受けてエディスが機嫌を良くする。


「そういうことだね」


 セシエルが棒読みで応じた。


「それでは頼りになるミアーノ侯女様。改めてご自分の責務を説明いただけますでしょうか?」


 ネミリーが悪戯っぽく笑いながら尋ねた。


「つまり、相手の船が来て、全部北に行くようだったら北に、沢山南に行くようだったら南側に警告を出すということでしょ?」


「他には?」


「他? 他に何かあったっけ?」


 堂々と首を傾げるエディスに、セシエルもネミリーも頭を下に落とす。


「……灯台にいるのだから、当然、エルリザから戻ってくるハルメリカ海軍に合図を出さないと。どういう合図を出すんだっけ?」


「えっと……ドカーン?」


「君は味方の船を沈めるつもりか。シルフィちゃんは分かる?」


 セシエルがシルフィに問いただすと、自信満々に。


「相手の船団が沖合にいるのなら、普通に灯をつけていて、北に行くようなら南側を塞いで北側に灯火が見えるようにする。南側に多いなら、その逆」


「はい、正解。シルフィちゃんがいるなら灯台は安心だ」


「本当、いい戦力が来てくれたわ」


 セシエルとネミリーが揃って言うので、エディスは口を尖らせる。



「ということで、あと一時間すれば、配置についてもらえるかな?」


「了解」


 全員が一斉に答えて、配置のための準備に向かった。


「灯台にいると寝そうだな~」


 穏やかでない発言をするエディスにネリアムが近づく。


「大丈夫だ、エディス姫。北に来ようが、南に来ようが、俺が守ってみせる」


 エディスもにっこりと笑う。


「はい、頼りにしています」



 ハルメリカが動員した兵力は6000。


 うち4000は、ハルメリカ防衛隊長であるエルブルス・ヘフネカーゼとフィネーラ・リアビィが率いる沖合にいる海軍の船に乗っている。


 残り2000のうち、半分ほどは市内の警備と遊撃要員で、これはセシエルが指揮をとる。


 最後に残る1000人のうち、200人をツィア・フェレナーデが指揮してハルメリカの南側に待機している。残り800人とゼルピナから来た200人はネリアムとシェレークが指揮して、ハルメリカの北側に待機した。


 ネーベル海軍もほぼ6000。


 地の利と陣容を考えれば、勝利は疑いない。


 あとはどれだけ損害を少なく抑えられるか、である。

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